「本当は働きたい」願望に火をつける 主婦のパートタイム派遣で急成長

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右が社長の三原氏、左が副社長の増村氏。小学校時代からの幼なじみで、社会人になってからも頻繁に会っていた(撮影:梅谷秀司)

2000年頃、新卒で入った会社で、三原氏はつねづね考えていた。「あんなに優秀だった女性たちが、ブランクを経ただけで、なぜ高校生と同じような仕事に戻ってしまうのだろう」。同僚として働いていた優秀な女性の派遣スタッフたちが、結婚や出産で次々と辞めてしまう。子会社の経営を任されることになり、彼女らに「手伝ってくれないか」と声をかけるが、誰もが子育てまっただ中。「働きたいけど働けない」という回答が返ってくる。スーパーでレジ打ちのパートをしている女性もいた。つくづく「もったいない」と感じた。

折しも、小学校時代からの幼なじみが、大手人材派遣会社で女性向けのパートタイム派遣事業の立ち上げに携わっていた。それが、後に共同創業者となる増村一郎氏(現・副社長)だ。女性が働き続けることのできるインフラを整えることの意義を、身をもって感じている者が、ごく身近にもう1人いたのだ。2人は何度もその事業の必要性について語り合った。今後の人口減少社会において、新たな労働力として主婦の活用が必須になってくることは明らかであるという点で、2人の意見は一致した。当時、主婦に注目して人材派遣を手掛ける企業はほかにもあったが、その多くはフルタイム派遣。派遣会社にとって単価の安いパートタイム派遣はおいしくないからだ。より主婦のニーズに近い、パートタイムで人材派遣を行うには、ゼロから仕組みを構築する必要があった。

2人で会社を設立したのは02年7月。三原氏が社長、増村氏が副社長に就いた。しかし、そこから数年は、苦しい時代が続く。チラシを印刷し、2人して夜な夜な中小企業が多く入居する雑居ビルにポスティングしたが、なかなか反応はない。「従業員はフルタイムが当たり前」と考える企業に、パートタイム主婦派遣のメリットを一つ一つ説いて回る日々が続いた。主婦がなぜ優秀なのか、なぜ高い生産性が期待できるのか、説得材料を考えながら、派遣先の開拓を進めていった。中小企業の経営者を200人集めてセミナーも開催した。3年目は大赤字。主婦の登録者が増え続ける一方、派遣先はなかなか増えていかない。それでも「ずっと考えて、ずっと走り続けて、ずっとあきらめなかった」(三原氏)し、「ありとあらゆる営業方法を試した」(増村氏)。

一部上場企業社長に”手紙作戦”

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道が開けてきたのは、創業から4年目のことだ。一部上場企業の社長に宛てて一通ずつ書いた手紙が意外にも奏功。何社もの名だたる企業の社長が、自ら面会に応じてくれたり、担当役員に話を通してくれたりしたのだ。ある大手自動車メーカーもその一社。全社改革を行うクロスファンクショナルチームとともに、プロジェクトを組んで、パートタイム主婦に任せられる業務のシミュレーションを行うことになった。半年かけて分析・検証を行った後、全社に「しゅふJOB」の主婦派遣が一斉導入されたのだ。

こうした実績を積み重ね、徐々に企業に主婦派遣が広がっていく。07年には企業向けに、社内業務の性質や適正な雇用形態がわかる分析ツールを開発。業務が集中するのが特定の曜日なのか、月なのか、時間なのかがすぐにわかり、適切な主婦派遣の活用方法を提案できるようになった。

12年からは、よりハイスキルの主婦向けの派遣事業「しゅふJOBエグゼクティブ」を開始。年収500万~1000万円以上クラスの管理職、専門職の実績がある主婦を、パートタイムで派遣するものだ。現在、米国公認会計士の資格を持つ経理スペシャリストや、経営企画部門でIPO(新規株式公開)をリードした経験のある女性、海外MBA(経営学修士)を持ち営業企画のキャリアを積んできた女性など、幅広い職種のプロフェッショナルが、約500人登録されている。日数や時間にもよるが、企業はこうした即戦力となる人材を、月額20万円前後で活用することができる。成長期にあるベンチャー企業や柔軟な考えを持つ若い経営者などが積極的に導入し始めているという。

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