「実家の片づけ」は日本経済の縮図だ あふれ返ったモノ、売れない家に悩む子世代
実家からは山のように物が出てくる。使い古した物が多いが、未使用の新品が大量に出てくる例もある。島根県に住む50代男性の柴田亮さん(仮名)は、一人暮らしをしていた母が2013年に急死。売却を想定して実家を片付け始めて面を食らったのは、3カ所あったトイレの中がいずれも未使用のトイレットペーパーで埋め尽くされていたこと。数えてみたら6個入りが67袋と、ざっと400個、5箱入りティッシュも24組見つかった。
親が生きていれば、スムーズに片付けられるかというとそうでもない。「いる」「いらない」の価値基準はたとえ親子でも異なり、方針をめぐって親子仲が悪くなることもある。また、相続した実家を売ろうと思ってもまったく売れないケースも多い。たとえば過疎地の古家。買い手を見つけ出すのはかなり大変だ。
最近、メディアで「親の家を片づける」というテーマが取り上げられることが増えた。先陣を切ったのは主婦の友社が昨年出版した書籍「親の家を片づける」シリーズ。発行部数は10万部を超えるヒットになっているという。テレビや新聞などでも連日のようにこの種のテーマが報道されている。
なぜ経済誌が「実家の片づけ」特集を組んだのか
東洋経済も8月18日(月)発売の『週刊東洋経済』で「実家の片づけ」という総40ページの大型特集を組んだ。「経済誌がなぜ?」と疑問に思われるかもしれないが、実家の片付けをめぐるさまざまな問題はまさに日本経済の縮図だ。
日本の平均寿命は男性で80.21歳、女性が86.61歳(2013年、厚生労働省調べ)。この前後で亡くなる人は、日本が貧しかった戦前、戦後の時代に青春期を過ごし、その後の高度経済成長に乗って日本中がどんどん開発されていった時期を生き抜いてきた。モノを持つことが豊かさの象徴であり、「持ち家信仰」も強かった。
一方、都市化の進行とともに、若い人は地方を飛び出して大都市に移住。実家を離れるケースが増えた。地方は過疎化。核家族化していく中で少子化も進み、ついに人口が減っていく時代に突入した。
日本は豊かになり、便利なモノが安く手に入るようになった。大量生産・大量消費の時代だ。ただ、モノのリサイクルやリユースといった市場は十分に整備されず、家にモノがたまっていくようになった。住宅ストックは世帯数をとっくに上回っているのに、いまだに住宅政策は新築促進。2013年の日本の空き家は約820万戸と、総住宅に占める割合は13.5%。過去最高を記録した(総務省「住宅・土地統計調査」)。
モノも家も余っていく中で、さまざまな意味での「実家の片付け」が子世代にのしかかる。これはもはや社会問題だ。個人も社会も、真剣に向き合う時が来ている。
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