東京五輪に感動した人は、政府を信頼するのか? 3000人の対象の追跡調査からわかった真実

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オリンピックを分析した行動経済学分析で、英国のポール・ドラン教授らの2012ロンドン・オリンピックの研究がある(※2)。オリンピックの開催中は、ロンドン、パリやベルリンの人々の幸福度が高まった。

しかし、オリンピック終了後にその幸福度は持続しない。とりわけロンドンでは、人々がオリンピックのために支出してよいと考える費用を上回るほどの幸福度は得られない。喜ぶのは費用負担のないパリやベルリンの人々であったと結論づけている。

2020東京オリンピックは、100年前のスペイン風邪以来の世界的パンデミック下で行われた。東京では緊急事態宣言が発令され、無観客開催となった。感染防止のため、選手の行動も大きな制約を受けた。この点で2012ロンドン・オリンピックとは大きく状況が異なる。では2020東京オリンピックの開催で人々は、一時的にせよ幸福になったのか? 開催前後の状況変化をみていこう。

オリンピック開催で幸福度は変化したのか?

開催直前にはコロナの感染爆発の懸念からオリンピック開催への批判が高まった。実際には、7月23日開会式では56%の驚異的な視聴率を記録し、東京オリンピックが国民的イベントであることを見せつけ、その後も競技の日本勢のメダルラッシュで視聴率は高水準で推移した。

IOCのバッハ会長は、「視聴率などの数字は国民が本当に感じていることを物語っている」として日本勢の活躍で国民感情が好転したと胸をはった(※3)。

一方都内の感染者数は一貫して増加していたが、しばらくは1000人台にとどまっていた。状況が急変したのは7月27日で、1日前から倍増し約2800人となり今年の最多の感染者数に達した。

その後の感染者は、3000人台、4000人台そしてついに8月5日には5000人までに急増した。日本全体でも1万5000人を超え過去最多を更新する。まさに感染爆発状態となったわけである。政府の対応は迷走し、国民の不満が高まっているように思われる。

オリンピック競技と感染爆発が、同じ時と場所で起きているが、まるで別世界の出来事のようである。筆者が参加する研究チームは、世論が大きく揺れ動いたオリンピック開催直前と開催中に、日本全国3000人に対して追跡調査を行った。

まず東京オリンピック開催に関して5段階評価で答えてもらった。4(賛成)と5(大賛成)を合わせた比率は6月末の調査では16%であった。一方政府を信頼している人は4(信頼している)と5(とても信頼している)で比率は18%であった。いずれも回答者の5分の1未満の比率である。

しかし同一人物を追跡調査したところ、開催直前に比べて開催中(7月末)に、オリンピック開催に肯定的な人の割合が増えた。一方で政府への信頼度は低下した。より詳細な統計分析では、開催前よりも開催後にオリンピックに肯定的になったからといって政府への信頼は高まっていないことがわかった。東京だけのサンプルを抽出しても同様の傾向があった。

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