誤解されたイノベーションの本当の意味とは 新結合を生み出す「4つの組み合わせ」を考える

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ではもう少し具体的な事例を見ていこう。

はるか昔から人類には「目的地に移動したい」というニーズは存在した。その当時の(イノベーションが起こる前の)ソリューションは、「歩いて移動する」という非常にシンプルなものだった。その点では、他の動物と大きな差はなかった。あえて言えば、歩きやすいように「道」を作っていたことくらいだろう。

当時はどんな長距離でも歩いて移動するしか方法がなかったため、疲れることに対して大きな不満はなかったはずだ。しかし、もし「疲れずに長距離を移動できる方法」を当時の人々が知っていたら、もはや「歩いて長距離を移動するという選択」には戻れなかったはずだ。

すなわち、「目的地に疲れずに移動したい」という願望は当時は潜在ニーズだったのである。潜在ニーズとは、別の言い方をすると、「当時は夢の話だと思って無意識にあきらめていた願望」とも言える。

しかし、やがて(昔からすでにいたという意味で)既存シーズだった「馬」と「新結合」され、「馬車」というソリューションが開発されると、「目的地に疲れずに移動したい」という潜在ニーズは実現された。まさに「新結合」によりイノベーションが起こった瞬間である。

潜在ニーズは顕在ニーズ化していく

この瞬間から、「長距離の移動は馬車に乗ってする」というのが「新しいあたりまえ」となっていき、やがて長距離移動時に馬車が用意されていないと人々は不満を持つようになった。このように、潜在ニーズは実現した時点から顕在ニーズに変化するという特徴を持つ。

「目的地に疲れずに移動したい」というニーズは、馬車の登場により満たされた。だが当時の人は、無意識にあきらめていたが、本当は「目的地に『もっと早く』疲れずに移動したい」という願望を持っていたはずだ。それが、当時の次の潜在ニーズだったのである。

その後、「蒸気機関」という新規シーズが発明され、もっと早く疲れずに移動したい、という潜在ニーズと「新結合」されることで「蒸気機関車」というソリューションが開発された。

人間は欲張りな生き物である。より便利なものがイノベーションにより生まれると、必ず便利な方を選択し、ライフスタイルをシフトさせていく。

こう考えると、イノベーションとは、その時代の潜在ニーズとシーズとの「新結合」により新規ソリューションが生まれ、人々の「あたりまえ」の意識と行動が変容し、無意識にあきらめていた願望であった潜在ニーズが顕在ニーズ化していくという、一連の変化であることがわかる。

松本 勝 VISITS Technologies CEO/創業者

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まつもと まさる / Masaru Matsumoto

東京大学大学院工学系研究科修了後、ゴールドマンサックス証券に入社。株式、 金利デリバティブのトレーダーを経て、2010年に人工知能を用いた投資ファンドを設立。2014年にVISITS Technologiesを設立し、人の創造性を可視化する「デザイン思考テスト」を独自技術(日米で特許取得)により開発。また、企業向け意思決定DXツール「VISITS forms」等のクラウドサービスを幅広く展開し、大手企業200社に対してイノベーション・DX推進の支援を行う。内閣府等のWG委員を歴任する他、2018年、スタートアップ経営者として初めてサマーダボスに招待され、その翌年には注目の経営者としてスーツ・オブ・ザ・イヤー2019を受賞する。

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