造船業界は受注が絶好調、「復調」はホンモノか 海運市況回復が後押し、業界再編も追い風に

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ただ、ここに来て、遅ればせながら進めてきた業界再編の動きがようやく実を結び始めている。

国内1、2位の今治造船とJMUは資本提携を結び、2021年1月に営業・設計を行う合弁会社「日本シップヤード」を設立。両社は日本シップヤードの設立前からすでに共同受注に取り組んでおり、2020年12月には「オーシャンネットワークエクスプレス(ONE。川崎汽船と商船三井、日本郵船のコンテナ船事業統合会社)」が傭船予定の世界最大級の超大型コンテナ船6隻を共同受注した。

2021年6月には、日本郵船が発注したLNG自動車運搬船12隻を日本シップヤードと新来島どっくがそれぞれ6隻ずつ受注した。

今後は海外の受注獲得にも期待がかかる。日本シップヤードの檜垣清志副社長(今治造船専務)は「それぞれの強みを生かした営業活動ができている。忙しすぎて設計部門が新技術の仕込みをできないほどだ」と話す。

過剰な生産能力は手つかず

ただ、先行きには懸念もある。1つが船の材料となる鋼材価格の高騰だ。原料である鉄鉱石価格の上昇や需給逼迫を背景に、日本製鉄やJFEスチールなど国内の製鉄会社も値上げに動いている。コスト上昇分は船の販売価格に上乗せせざるをえないが、船価はこれまで低迷続きだっただけに、値上げが認められるか不透明だ。

それ以上に問題なのは、日本の造船業界の生産能力が過剰なことだ。1980年代に国の主導により人員整理が進んで以来、造船業に従事する人の数はほぼ横ばいで推移している。「持続可能な水準からは明らかに過剰」(造船大手幹部)だが、地方に散在する造船所の地元にとって雇用問題は一大事だ。

近年は造船不況に耐えきれず、造船事業そのものを外部に売却する動きが相次いだ。経営危機に陥った三井E&Sホールディングス(旧三井造船)は、岡山県玉野市の造船所で行っていた艦艇事業を三菱重工に譲渡する。同社は商船事業の生産からも手を引き、100年以上の歴史を持つ名門・三井造船の祖業がついに幕を下ろす。

JMUの舞鶴事業所(京都府)や名村造船所傘下の佐世保重工(長崎県)も新造船をやめ、修繕事業に特化することを決めた。三菱重工も香焼工場(長崎県)を大島造船所に売却する。いずれの造船所も、地域雇用の中心を担っており、地元経済への衝撃は計り知れない。

溶接など多くの工程が手作業で行われる造船は、典型的な労働集約型産業だ。労働力人口の減少が見込まれる中、縮小もやむなしとの声も上がる一方、製鉄から造船、海運までの「海事クラスター」という観点から産業を保護すべきとの意見も根強い。日本の産業界全体に関わる困難な課題に向き合う必要がある。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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