静岡県、リニアと熱海土砂災害で「ダブスタ」疑惑 同一委員の発言をリニアで黙認、土砂災害で批判

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専門家から異論、反論はまったく出ず、JR東海の主張はそのまま認められた。ただ、塩坂氏が大騒ぎすれば、大井川直下の大量湧水が県専門部会であらためて議論される可能性が残る。

いちばん問題なのは、川勝平太知事が国の有識者会議で議論を求める、「引き続き対話を要する47の検討項目」に、塩坂氏の“お騒がせ発言”が含まれてしまったことだ。47項目は、流量、水質、残土置き場、生態系への影響など多岐の分野にわたる。

塩坂氏は「目先の代償措置で生態系は守れない。地下水枯渇の代償措置として地下ダムの説明をした。表流水の減少は周辺の生態系に壊滅的な影響を及ぼす。JR東海は地下ダムを考えるのか、そうでない場合は代替案を示すべき」などとして、生態系保全のために大井川支流の西俣川に「地下ダム」建設を求めた。塩坂氏以外の委員は、「地下ダム」について否定的だった。

47の検討項目が決定される前、2019年9月12、13の両日、県専門部会は地質構造・水資源部会、生物多様性専門部会に分かれて、議論を行っている。地質構造・水資源専門部会で、塩坂氏は「地下ダムは日本に20カ所以上ある。生物や環境の修復ないしは復元のために地下ダムをつくったケースはない。日本で初の試みとなる」など説明した。

これに対して、JR東海は西俣川に建設する「地下ダム」のイメージ図を示したうえで、「ダムの規模が小さいとしても、河川の自然環境を崩してしまい、絶対的な改変は避けられない。自然環境にさらなる影響がでるから、一般的に行われた事例がない」など否定的な見解を示した。

塩坂氏は「環境に大きな負荷を与えないと思うが、これは生物多様性専門部会の協議になる。地下ダム以外の新たな代替案が示されなければ、この問題は解決しない」などと強調、JR東海はあらためて「河川の中で新たな工事をやるという選択肢はない」とかわしたため、部会長が「生物多様性専門部会で議論してもらう」と先送りした。

塩坂氏は「中立」なのか

翌日、生物多様性専門部会が開催されたが、「地下ダム」についての議論は一切なかった。同部会でテーマとならなかったのは、そもそも自然環境の代償措置で、新たな環境ダメージを与える取り組みは行われないからだ。それにもかかわらず、県は47の検討項目に「地下ダム」を入れた。

このため、JR東海は「ダムの壁体建設は河川内での施工となり、土中にある転石など技術的に困難であり、水質の悪化や発生土、建設汚泥の増加が想定される。地下ダムによってさらなる環境負荷がかかる。合理的な対策ではない」などとあらためて主張している。

難波副知事は熱海の土砂災害では、塩坂氏の発言を「不確定な情報で危険性を指摘するのは不適切だ」と批判する。しかしリニアに関しては、塩坂氏が不確定な情報で危険性を指摘することを黙認する。これはダブルスタンダード以外の何者でもない。

さらに、塩坂氏が県専門部会の委員に選ばれた経緯について県は口をつぐむ。しかし、環境調査会社代表だった塩坂氏は県事業を受注してきた利害関係人である。はたして中立性は保たれているのか。塩坂氏の人選経緯を難波副知事はきちんと説明するべきである。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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