北朝鮮、実は食糧自給率100%に近い? 穀物生産が回復傾向、食糧難は徐々に解消も

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ほかにも米国農務省が発表する統計などを見ると、統計を発表する主体によって差はあるものの、おおよそ9万~39万トンが不足しているというのが、北朝鮮の食糧生産の実態のようだ。足りない分は輸入や人道目的の援助物質で補充しているという。

主食のコメとトウモロコシの自給体制が課題

しかし、依然として北朝鮮の食糧事情は厳しいという見方も根強い。韓国・国民大学の鄭昌鉉教授は、2つの理由を挙げる。

まず、北朝鮮国内の地域別、階層別、職業別での食糧配給や供給において差が出ていること。全体の統計から1人当たり平均を見るとそれほど不足してはいないが、平壌と地方といった供給の優先順に、また生産目標を達成した共同農場とそうでない農場、稼働して実績を上げている工場とそうでない工場で食糧の供給量に差が出ており、これが個人の消費量に差が出てくるためだ。

次に、主食の生産状況がどうなっているかだ。北朝鮮での主食はコメとトウモロコシだ。これら2つの主食の生産がまだ十分ではないためだ。北朝鮮の穀物生産には、ほかにジャガイモや大豆・小麦などがある。故・金正日総書記時代に「ジャガイモ革命」を打ち出し、主食の代替食糧としてジャガイモの生産を奨励したことがあるが、国民には主食の代わりになりえなかったようだ、と鄭教授は説明する。

現在の金正恩第1書記は第1書記就任からこれまで、大規模農場や温室での野菜栽培施設の造成・建設を推進しており、また水産物の捕獲・加工にも力を入れていることが北朝鮮メディアの報道をみるとわかる。これには、穀物の増産という課題に加え、「国民の栄養摂取不足を解決するために行われている」(鄭教授)。FAOの調査によれば、北朝鮮の住民の1人当たりの摂取栄養分が、一般成人の摂取基準をはるかに下回っているという。国民の栄養状態を改善するため、これら農場や施設を建設することで野菜・果樹や水産物の生産にも力を入れていると思われる。

今年は春先に日照りが続き、田植えの時期に水不足となったことを北朝鮮メディアが報道した。この点が今後の収穫に不安を残すが、全体的な傾向として、食糧事情は徐々に改善していると見てもよさそうだ。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事