国際的な金融規制強化、経済危機に拍車をかける副作用の面を軽視するな
オバマ政権が成立を急ぐ銀行改革にも明暗がある。「二度と過ちを繰り返さない」という意味では厳しい改革には説得力がある。
しかし、従来は可能だった流動性の供給や信用創造が減殺される副作用もある。ましてや、アメリカでは金融危機は解消していない。不動産価格の暴落で地銀の倒産が相次いでいるうえ、早晩、住宅ローン問題が再燃することが避けられそうもないことはIMF(国際通貨基金)も定期リポートで指摘している。「Option Adjustable Rate Mortgage」(OARM)と呼ばれる実質変動金利型ローンの返済不能問題だ。
金融危機、経済危機を拡大させず、世界経済の深刻な底割れを防ぐには、流動性が十分に供給される必要がある。そこで、各国の中央銀行は金融市場に巨額のマネーを供給しているが、その効果が実体経済に波及するには、銀行と金融・資本市場の機能が発揮されることが必要だ。
ワイマールの教訓
ユーロ圏ではギリシャが財政危機解消のための金融支援を得るため、増税など厳しい財政緊縮措置を発動した。世界的にも「新たな緊縮主義」という言葉が強調されつつある。財政立て直しのために必要な措置でも、これによってマネーの根詰まりが起きかねない。今は良好な中南米諸国に資本引き揚げが及ぶ懸念もある。緊縮が強まれば、国内経済の停滞から世界で保護主義が跋扈(ばっこ)する。
第1次世界大戦の敗戦国、ドイツは理想の民主主義国家であるワイマール共和国を樹立した。しかし、巨額の戦時賠償の苛烈な返済義務と緊縮財政にあえぎ、かつ、世界恐慌が重なる中で、ワイマール共和国は事実上の崩壊を迎える。アドルフ・ヒトラー率いるファシズム国家に突き進んだ。その過程を丹念に検証した名著が有澤廣巳氏による『ワイマール共和国物語』(東京大学出版会)だ。