エヴァの「マリ」TV版にはいなかったキャラの正体 新劇場版から登場、既存のエヴァ世界を壊す役割

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新キャラクターのマリは、動物的である。実際、エヴァの操縦では「ビーストモード」を発動できる。ハニーと同じように「三百六十五歩のマーチ」を歌いながら登場し、胸の大きさを強調して描かれる彼女は、肉体や動物の生命力そのもののようであり、シンジやレイの対極であり、これまでの『エヴァ』世界にいなかった存在だ。

『エヴァ』世界になかった、「ふまじめさ」「いいかげんさ」「ずるさ」を導入することを鶴巻が提言した結果、庵野からヘンなギャグを言う「昭和のおやじ」的キャラがアウトプットされてきた。「変に自我に目覚めて、『自分の人生これでいいのか?』なんて考え込まない。かつてのエヴァが描いた自問自答し答えを探し続けるような現代的なキャラクターとは正反対のキャラを描こうとしたときに」(『:破 全記録全集』)こういうキャラが出てきたのではないかと鶴巻は推測している。

マリの脚本上の扱いは相当困ったらしいが、それでも敢えて物語上に入れる必然性は、明らかだろう。生命それ自体の肯定的側面を強調しているのだ。『キューティーハニー』のイメージメモで言えば「明るくほほえましいエッチ」、キリスト教的な原罪意識や、近代的な自意識の悩みを抱えていない存在である(ハニーと同じようにカチューシャを付けるというのは、庵野からのリクエストである)。アスカが新劇場版で「日本人」という言葉を強調することから、それは日本神話的な大らかな性の感覚と繫がりを持っているのではないかとも想像してしまう。

マリはシンジに「逃げなよ」と言う

父に反抗しエヴァに乗らないと言って逃げたシンジの前に現れて、「エヴァに乗らないんだ」と叫ぶシンジに向かって言い放ったマリの台詞は、彼女の性格を良く表している。「エヴァに乗るかどうかなんて、そんなことで悩むやつもいるんだ」「そんなにいじけていたって何にも楽しいことないよ」。その瞬間、画面は光に溢れて真っ白になる。マリはシンジにエヴァに乗れと言わず、むしろ「逃げなよ」と言う。逃げることを肯定するキャラクターは、『エヴァ』世界で初めてではないか。

マリは生命や人間、身体や欲望への肯定を象徴したキャラクターだ。登場人物で言えば、加持もシンジを誘って水族館を見せたり、土いじりに誘ったりするので、そちら側に近い。マリは、新劇場版がTV版とは大きく異なる思想を持っていることを象徴するキャラクターで、ゲンドウ的な「幾何学・清潔」な世界像を望む勢力とは全く違う存在として『エヴァ』世界に現れたのである。

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