リニア工事費「1.5兆円増」、JR東海は耐えられるか 増額幅は北陸新幹線の敦賀延伸費用に匹敵

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また、トンネル掘削に伴い発生する土砂について、都市部では横浜港新本牧埠頭の護岸工事に用いられることになったが、発生土受け入れに当たって、護岸工事の費用を一部負担することになった。山岳トンネルからの発生土も、運搬費や受け入れ費用が当初想定より増加する見込みだという。なお、「人件費の増加や資材の値上がりも今回の増額分に含まれる」(宇野護副社長)としている。

山梨県内で進むリニアの工事現場(撮影:尾形文繁)

まだ本格的な工事が始まっていない静岡工区が費用増に影響を与えているかどうかは気になるところだ。トンネル湧水を大井川に戻すための釜場や導水路トンネルの設置が工事費に影響を与えないのかという点については、「釜場や導水路トンネルはもともと設置することになっており、今回の増額分には含まれていない」(宇野副社長)。すでに工事費に含まれているということだ。なお、静岡工区では、林道の整備や発生土の処理費用が当初想定よりも膨らむとみられ、これらは織り込んだという。

この1.5兆円は、営業キャッシュフローや借り入れなどによって賄う予定だが、この工事増にJR東海のバランスシートが耐えられるかも気になる。この点については、過去にさかのぼって見ていく必要がある。

従来の想定は「負債5兆円以内」

JR東海は1991年に新幹線鉄道保有機構から東海道新幹線に関わる鉄道施設を約5兆円で買い取り、5.4兆円もの長期債務を背負うことになった。その後、東海道新幹線がもたらす旅客収入で毎年少しずつ負債を返済し、2015年度に長期債務残高は2兆円を切った。およそ年間1400億円のペースで返済した計算だ。

この実績から、長期債務残高が5兆円までなら耐えられるという自信がJR東海にはある。逆にいうと、品川―新大阪間の総事業費は9兆円だが、これを一気に背負うだけの経営体力がないと判断し、まず品川―名古屋間を先行して開業し、ある程度債務を減らした段階で、名古屋―新大阪間工事を始めるという2段階方式のスキームを採用した。

では、1.5兆円の工事費増はJR東海の財務にどのような影響を及ぼすのだろうか。

今回公表した資料によれば、2027年度以降は長期債務残高が6兆円に達し、その状況が数年続くという想定だ。ところが、JR東海が2010年に公表した、リニア工事を前提とした長期収支見通しによれば、長期債務残高は2027年度の4.9兆円をピークに少しずつ減少に向かう想定だった。同じく2010年に交通政策審議会中央新幹線小委員会が作成した資料では、「債務残高を最大6兆円とすることはリスクが大きい」というJR東海の主張を掲載している。

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