パナソニック「巨額買収」、不安拭えぬ2つの理由 次世代に負の遺産残す「ジンクス」を断てるか

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振り返れば、1991年に脱家電を目指してアメリカの映画大手MCA(現NBCユニバーサル)を買収したが、わずか4年後に8割の株式を手放した。

2011年には三洋電機とパナソニック電工を完全子会社化したものの、全社の売上高は2011年3月期の8兆6926億円から2020年3月期の7兆4906億円へとむしろ減少。買収目的である三洋電機が得意とした角形電池はトヨタ自動車が主導する共同出資会社になり、太陽電池の生産は2021年度中に撤退する。いずれも選択と集中の結果、成長につながらなかった。

樋口氏は「日本企業は買収後の統合作業が得意でなく、パナソニックも例外ではない」と認めたうえで、「ブルーヨンダーの経営がおかしくなるようなことは絶対にしないようにする」と強調した。

両社は協業から1年半かけて関係を深化させてきたほか、すでに樋口氏も2020年7月からブルーヨンダーの取締役として経営に関与してきた。「サプライチェーンの革新という意味では(両社とも)同じ思いを抱いているので、自然と相乗効果を生み出せるはずだ」(樋口氏)と自信を見せる。

失敗のジンクスを絶てるか

ただ、統合作業さえうまく行けば安泰かというとそうではない。

パナソニックの場合、買収案件かどうかにかかわらず、成長領域と位置づけ巨額投資を行った事業がたちまち不採算化し、全社的な停滞をも招いた事案が複数ある。約6000億円を投じたものの液晶テレビとの競争に敗れたプラズマテレビ、数千億円を投じながらテスラ向け電池などで赤字を出し一時「再挑戦事業」に格下げされていた車載事業などがその代表例だ。

プラズマテレビからは2012年に社長に就任した津賀一宏氏の”大ナタ”で撤退。車載事業は2019年4月に同事業部門のトップに就いた楠見氏が固定費削減など構造改革を進め、黒字化まで復調させた。トップ肝いりで巨額投資を行った事業にやがて危機が生じ、次世代の経営陣が立て直すという事態が繰り返されている。

樋口氏は買収先の選定について「すでに経営基盤が安定していて、しっかりした経営者がいることが基準。リカーリング比率が高い会社しか考えてなかった」と話す。「戦う場所を賢く選ばなければコモディティー化や競争激化にさらされるが、(ブルーヨンダーの事業は)参入障壁が高く顧客基盤も持っている」(樋口氏)と、パナソニック社内で堅実な経営判断が行われたことを強調する。

パナソニックのある役員は「投じたお金がどこかに消え、そのツケが次世代に回るのはパナソニックの悪い癖」と苦笑する。悪癖を絶ち、パナソニックが成長路線に回帰するためのピースとしてブルーヨンダーを生かせるか。6月に社長に就任し、持株会社化する新生パナソニックを率いる楠見氏の手腕が問われる。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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