リニア反対でダムに甘い、静岡知事の「2重基準」 知事選出馬の川勝氏に静岡市長が異例の意見書

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30年以上前、大井川源流部のダム計画に当たって、現在のような自然環境保全は重要視されず、1995年、2つの発電所が同時に稼働した際にも、ヤマトイワナの生息環境など誰も考えていなかったという。その後、1997年に動植物の生息等に必要な河川環境を保全するための河川法改正が行われた。

二軒小屋発電所の西俣えん堤、東俣えん堤、赤石沢発電所の赤石沢えん堤、聖沢えん堤などの位置図(中部電力の資料)

また、2019年から始まったリニア問題を議論する県生物多様性専門部会で、ヤマトイワナ保全は一躍、クローズアップされるようになった。

静岡市をはじめ、長野県、山梨県の関係10市町村の南アルプスの広い範囲が2014年6月、自然環境の保全と人間の営みの両立に取り組む魅力ある地域としてユネスコエコパーク(生物圏保存地域)に登録されると、静岡市は、自然環境保全の一環として、ヤマトイワナの生息状況について継続調査している。

しかし、近年では純粋種の発見は非常に少なくなり、2020年には絶滅危惧種の中では最も高いランクに位置づけされた。

今回の2つの発電所にかかわる水利権更新に当たって、静岡市長が意見書を送った背景には、ヤマトイワナ絶滅危惧の最大の原因が大井川源流部に建設したダムやダムによる水量の減少だとする専門家らの指摘があり、静岡市長もそれに耳を傾けたようだ。

大井川源流部のヤマトイワナを調査研究する専門家は「西俣えん堤が建設された当時、調査に入ったが、渇水期にえん堤からの水が切れてしまい、イワナが大量死していた」とダムがヤマトイワナの生息域を一変させた状況を説明した。

リニア工事地区でヤマトイワナはほぼ絶滅

南アルプスのふもと、静岡市井川地区で生まれ育ち、ヤマトイワナの生態研究を続ける元役場職員の岡本初生さんは「赤石沢のダム建設のために道路をつくり、大量の工事車両が入ったため、土石流が流れ出した。赤石沢にはイワナ淵など、たくさんのイワナが群れる場所もあったが、すべて絶滅してしまった。そもそも、崩壊しやすい南アルプスの源流地域にダムを施工すること自体、愚かだった」と、いかにダムの影響が大きいのかを証言した。

静岡市調査で発見されたヤマトイワナ(同市提供)

ダムの影響だけでなく、釣り人誘致のために地元の井川漁協は1970年代後半から、静岡県の指導で大量の養殖ニッコウイワナを放流した。繁殖力の強いニッコウイワナとの交雑が進み、純粋のヤマトイワナはすみかを追われた。

リニア問題の議論では、JR東海が静岡工区のリニアトンネル計画路線に沿って、影響を及ぼす16カ所の地点で魚類調査を行ったが、ヤマトイワナは発見されていない、という。ダムやニッコウイワナ放流などの影響ですでにリニアトンネル計画路線が影響を与える地域では、ヤマトイワナはほぼ、絶滅したとみられる。JR東海の調査地点よりは、上流域のみに生息している可能性が高いのだ。

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