増強相次ぐ「有料着席列車」は救世主になるか 通勤利用低迷の中、一般列車減らし増発の例も
しかし、これまでは朝ラッシュ、特にピーク時間帯は混雑率を抑えるために列車を最大限設定する必要があり、定員の限られた着席列車を設定する余裕がなかった。例えば京王電鉄の京王ライナーは、平日上りは5本設定があるが、新宿駅6時28分着の2号、6時47分着の4号、7時13分着の6号の後、約2時間設定がなく、9時16分着の8号、9時40分着の10号となっている。本来であれば最もニーズのあるはずの7時30分~9時新宿着の列車が設定できないのである。
ところが新型コロナの影響で普通列車の混雑率が低下すれば、東武東上線のように乗車率の少ない列車の運転を取りやめ、そのダイヤで着席列車を設定することも可能になる。
あるいはJR東日本の普通列車グリーン車や、京阪電鉄のプレミアムカー、東急電鉄(大井町線)のQシートのように、編成の一部車両を特別車両として運行本数と着席ニーズの両方を同時に満たす選択肢もありえるだろう。
客が戻らない中でどう稼ぐか
課題は収益性である。着席列車のスタンダードになりつつあるロングシートとクロスシートを切り替え可能な座席転換型車両の製造費用は公表されていないが、京王は京王ライナー導入時に車両製造費(10両編成5編成)と券売機などの整備を合わせた設備投資額を約100億円としていることから、1両あたりの製造単価は2億円以下と推定される。私鉄の通勤電車は1両あたり1億5000万円程度なので、座席転換機構は大雑把に見ても1両あたり5000万円以下と言えるだろう。
仮に5000万円としても、1両あたり定員50人で、平日のみ2本運行、1人500円を徴収して着席列車を運行すると、乗車率8割程度あれば5年ちょっとで元が取れる計算だ。特に朝ラッシュに運行すれば高い乗車率を期待できるだろう。
着席列車の運行のためだけに特急車両を増備しても元は取れないが、通勤列車と兼用できる座席転換型車両を使用すれば収益性を確保しつつ、着席列車を運行することができる。元から観光向け特急列車を運行している路線を除き、今後も着席列車の主役は座席転換型車両になるだろう。
鉄道事業者がポスト・コロナを生き延びるためには、設備を利用者数に見合った規模にスリム化し、収益性を回復させる必要がある。すでに今回のダイヤ改正で一部の路線は朝ラッシュ時間帯の減便に踏み切ったが、今後はその動きがさらに加速していく。一方で、浮いた輸送力でいかにお金を稼ぐかも問われることになる。これまでは横並びだった朝ラッシュ時間帯においても、本格的なサービス競争の時代が始まるだろう。
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