SNSがトランプ危機を引き起こしたカラクリ サイバー法の権威・レッシグ教授が問題を指摘

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――ところで、1月6日のトランプ氏支持者による連邦議会占拠事件を受け、ツイッターはトランプ氏のアカウントを凍結しました。表現の自由の侵害だとの批判もあります。

確かに疑いのない侵害ですが、表現の自由を扱う米国憲法修正第1条の下では問題ありません。ツイッターは民間企業だからです。ニューヨークタイムズ紙などの新聞社が、記事掲載の可否について編集権を持っていることと同じです。

実際のところ、今年1月の連邦議会乱入事件では、私たちは非常に急迫した状況にあり、誰かが何かをしなければならない本当の危機でした。そして、私たちが見たのは、トランプ氏の表現の自由がツイッターによって侵害された途端、緊迫した動きを落ち着かせる根本的な効果があったということです。もしトランプ氏が1日10回のツイートを続けていたら、バイデン政権の最初の30日間がどうなっていたかはわかりません。だからこそ、緊急の措置が取られたことは喜ばしいことだと思います。

GAFAは「表現の自由」より市場独占力こそが問題

しかし長期的に考えれば、これは非常に重要な問題を提起しています。私たちは少数のプラットフォーマーの独占を許してしまいました。ですから例えばフェイスブックやツイッターが政治家の言論を排除しようとしたとき、国民の間の言論空間がどのようになるかが大きな意味を持つようになっています。もし同じようなプラットフォームが10個あったとしたら、それはさほど重要な意味を持たないと思います。

ですから、今回ツイッターが編集権を行使したことはいいとしても、それを当然のこととして受け止めることはできません。こうしたプラットフォーマーの市場権力への対応について長期的に考える必要があると思います。

――メルケル独首相は「言論の自由は、立法機関によってのみ制限されるべきだ」と発言しました。これについてはどう思いますか。

いろいろな意味にとれる発言です。ドイツや世界中の新聞社も編集権を行使していますから、もしメルケル氏の発言が「民間企業は人々の表現を制限する能力を持つべきではない」という意味なら間違っています。政敵の記事を取り上げないことや、ある政治家の思想があまりにも狂っていたり、極端だったりするために掲載する価値がないと判断することは米国憲法修正第1条に違反するとは思いません。

実際、どの政治家や言論がインターネット上で公開されるべきか、政府だけが編集上の判断を下せるという意味なら、危険だと思います。アメリカでは、ティム・ウー氏(アメリカ・コロンビア大学教授、バイデン政権の国家経済会議のテクノロジー・競争政策担当の大統領特別補佐官として起用された)のような人たちが、むしろプラットフォーマーの市場権力の問題について議論しています。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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