党内保守派に秋波、ポスト菅狙う岸田氏の苦悩 与野党全面対決の広島再選挙は「お手並み拝見」

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だからこそ、広島再選挙の勝敗が「その後の菅首相の政局運営も左右する」(閣僚経験者)とみられている。

広島は圧倒的な保守地盤とされ、参院広島選挙区は定数2を与野党が1議席ずつ分け合ってきた。これまで自民候補が野党候補の2倍近い票を獲得しており、「本来なら負けるはずのない選挙」(自民選対)だからだ。

しかし、今回は自民分裂の果ての巨額買収事件を受けての再選挙で、自民党にとって「猛反省のうえでのみそぎの戦い」(地元県連)となる。その一方、立憲民主党は当初、4年後の改選時に現職同士が競合するとの懸念から、野党統一候補で戦うことに及び腰だったとされる。

消えぬ前回選挙の「恨み」

自民党は4.25ダブル補選での敗北ショックを避けるため、「二階俊博幹事長ら執行部が河井案里氏に有罪判決直後の議員辞職を働きかけたことが、再選挙につながった」(自民幹部)とされる。ただ、主要野党は「与党の思惑通りにはさせない。4年後への配慮など必要ない」(立憲民主幹部)として、統一候補擁立による全面対決に踏み切った。

そこで問題となるのが、新人候補の西田氏をめぐる与党の支援体制だ。自民分裂選挙となった2019年7月の参院選で、岸田派重鎮で自民現職だった溝手顕正・元国家公安委員長が落選したのは、「公明党が菅首相や二階氏の意向も踏まえて、新人の河井氏に肩入れしたのが原因」(岸田派幹部)との見方が多い。このため、今回選挙では当初、地元の自民県連から「公明の支援はいらない」との声すら出ていた。

しかし、公判中の案里氏の夫で元法相の河井克行被告(4月1日に議員辞職)が当選した衆院広島3区で、次期衆院選の与党統一候補として公明党の斉藤鉄夫副代表が決まり、公明党は西田氏の全面支援を表明。ただ、「西田氏陣営では前回選挙の恨みは消えていない」(自民選対)のが実態だ。

自民党は岸田派が選挙戦の中軸を担い、3月27日に3度目の同党県連会長となった岸田氏が陣頭指揮をとる。岸田氏は同日、「出直し選挙だ。今度は間違いなくしっかりとした人間を選ぶ」と陣営に檄を飛ばし、岸田派所属議員や秘書団を西田陣営に集結させる必勝態勢を組んだ。

ただ、前回分裂選挙のしこりもあって、二階幹事長ら党執行部は「選挙は岸田派任せで、お手並み拝見」(細田派幹部)の構え。菅首相は4月1日に岸田氏と会談し、「大切な選挙だ。頑張ってほしい」と激励したが、「党を挙げての総力戦とはなりそうもない」(自民幹部)のが実情だ。

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