なぜ日本はマスク好き?その意外な歴史的背景

140年以上前にすでにファッションアイテム化

マスクの着用が義務化されていないにもかかわらず、日本人の着用率は高い(写真:ロイター/アフロ)
緊急事態宣言は解除されたものの、新型コロナウイルスの感染拡大は収束の気配がなく、マスクを手放せない日々が続いている。そのマスク、日本ではコロナ以前から多くの人が身に着け、身近だった。一方、欧米では重篤な病気にかかっている人がするものとされ、マスクを着けている人は敬遠されていた。国や文化の違いによって捉え方が大きく異なる、不思議な存在だ。
マスクはいつから、誰が、なぜ使ってきたのか。「マスク大国日本」の歴史を軸に、慶應義塾大学文学部訪問研究員の住田朋久氏に尋ねた。

マスクの原型が登場したのは1836年

科学史・医学史の領域で研究を続けてきた住田氏は、新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、マスクの歴史を調べ始めた。その時点でマスクの歴史に関する研究は、日本はもとより世界を見てもほとんどなかったという。そのため、過去の新聞や雑誌、小説、民俗について書かれた書籍などを片っ端から調べて、マスクに関する情報を丹念に集めることから研究は始まった。

住田朋久(すみだ・ともひさ)/2002年国際基督教大学教養学部卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程(科学史・科学哲学)単位取得退学。日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員などを経て、2020年から慶應義塾大学文学部訪問研究員、科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー

「現在のマスクに直接つながるものが現れたのは1836年です。イギリスのジェフリーズという医師が、呼吸器疾患の人のための『レスピレーター(呼吸器)』として開発しました。これは今、私たちが使っているマスクと同じような形状で、鼻と口を布で覆い、両端に付けられた紐を耳にかけて使っていました。

ただし、中には格子状の金属が入っていて、息を吐くとそこで温度や湿度が保たれ、温かく湿った空気を吸うことができるという仕組みです。1862年の第2回ロンドン万国博覧会にも出品されています。

そのレスピレーターが1877年頃までに日本に入ってきました。少なくとも、1879年のレスピレーターの広告が資料として残っています。医療者や患者を対象としたものではなく、一般の人向けのもので、色は黒でした。東京など都会でのファッションアイテムとして人気を博しました」

意外なことに、140年以上も前の日本でマスクはトレンドアイテムだったのだ。

記録として残る日本で最も古いマスクの広告(1879年)(出所:宮武外骨編『文明開化2 広告篇』1925年)
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