「オンライン研修」低コストと過信する人の盲点 「対面式」と「オンライン式」どちらが得か?

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では、研修は将来どうなるのでしょうか。結論的には、①オンライン方式、②対面方式、③ハイブリッド方式の3つに分かれると思います。

多くの研修が①オンライン方式に移行し、物理的な実技・ロールプレーを伴うものや新人研修のように人脈形成を大きな目的にするものは、②対面方式を続けます。そして、両者を組み合わせた③ハイブリッド方式が広がるでしょう。

社会人の学習には、基本・応用・実践という段階があります。従来の研修では、基本を中心に応用を少し学ぶだけでしたが、オンライン化で受講者が職場でどう実践しているのかをきめ細かくフォローできるようになりました。

たとえば、「オンラインで基本を学ぶ」→「対面で応用を学び、他の受講者から気づきを得る」→「オンラインで実践を個別にフォローする」→「対面で実践の状況・成果を共有し、気づきを得る」というやり方ができます。研修とコンサルティングをミックスしたイメージです。

今後を考えるうえで、技術的な条件もさることながら、そもそも何のために研修をするのか、という根本的な疑問に向き合う必要があります。

基本スキルを学ぶだけなら、わざわざ高い金を払って研修をしなくても、ビジネス書を読むか、YouTubeを見れば済みます。ビジネス書やYouTubeにない研修の価値とは、「他者からの気づき」と「人脈」を得られることではないでしょうか。

研修でいろいろなタイプの受講者とともに学ぶことで、仕事の仕方・ものの見方・問題意識など新たな気づきを得られ、今後の学習のきっかけ作りができます。また、仕事を進めるうえで必要な社内人脈を形成できます。「学習内容」よりも、「一緒に学ぶ人」に価値があるわけです。

「対面方式」と「オンライン方式」どちらが得か?

では、こうした効果をより多く期待できるのは、より効率的・低コストで得られるのは、オンライン方式と対面方式のどちらでしょうか。

世界最高の経営者と言われた米ゼネラル・エレクトリック(以下、GE)の元CEOジャック・ウェルチは、超多忙なスケジュールを割いてクロトンビルにある社内研修所を毎月訪問し、幹部候補の受講者と対話を繰り返しました。Zoomがなかった時代とはいえ、自分の方針を伝えるだけならビデオを見てもらえばよいにもかかわらず、ウェルチは対面による対話にこだわりました。

GEの例から、効果が大きいのは対面方式と言えそうです。ただ、効率が高くコストが低いのは、オンライン方式。企業が研修に何を期待するかによって、答えは違ってきます。

OJTが主体の多くの日本企業では、研修は人材育成の脇役で、階層別研修を年中行事でやっているだけでした。オンラインか対面かという今回の議論に端を発して、そもそも研修に何を期待するのか、企業経営の中で研修をどう位置付けるのか、という根本的な議論に発展することを期待したいものです。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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