リーダーシップに必要なのは理性より楽観主義 心理学と脳科学に見るリーダー像のつくり方

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なぜリーダーには楽観主義が似合うのか?

楽観主義と悲観主義という特徴あるものの見方によって、楽観脳と悲観脳が動かされ、予想どおりのいい結果と予想どおりの悪い結果がもたらされる。

楽観的なものの見方をする人は、快適さや希望に反応するポジティブな脳の中枢が喚起されやすく、その結果、いい出来事を呼び込むことが多くなる。反対に、悲観的なものの見方をする人は、不安や恐怖といったネガティブに脳の中枢が支配されやすく、結果として、よくないことばかりに遭う。

なんということだろうか! 楽観と悲観のものの見方が、それぞれ自己成就して、予想どおりの結果となって現れる。脳が晴れていればいいことが起こり、脳に雨が降っていれば悪いことばかりが起こるなんて、なんとも不思議だ。

心に描いたとおりになる

リーダーは、まだ見ぬ未来に向けて、人を導いていかなければならない。その道は険しいし、ついてくる人たちも、不安や心配で心がいっぱいだろう。そんなときでも、みんなを励まし、自分が描いた未来に向けて、一致団結して進んでいかなければならない。だから、リーダーはバカバカしいほど楽天的で、周りを元気づけるパワーが欲しい。

楽観性はリーダーシップに欠かせない要素である。それは生まれつきの性格みたいなものだから、「心配性の私には、とってもムリ」と思ってしまう。ただし、そんなに悲観的にならないように。性格は変わるというのが、現代の心理学では主流の考え方だ。

頭に浮かんだ考えやイメージに、楽観的なラベルづけをすれば、悲観中枢である扁桃体の働きを抑えることができる。悲観的な人でも、認知のトレーニングによって、楽観的に変わっていく。悲観的な脳であっても、訓練の仕方で、楽観的な脳に変わることをお忘れなく。

もちろん、ビジネスでは直感というのは分が悪い。ロジカルに物事を考え、理性的に判断していくのがベストという考え方が支配している。直情的でいつも熱く語りかけ、高い理想に向かって周りに働きかけるような人は、うっとうしがられるだけだ。

反対に、人間味には欠けるが、金銭的感覚とリスクにはきわめて明るく、つねに沈着冷静で理性的に物事を判断できる人を、組織では尊重してきた。

会社組織であれば、ふつう、auのCMに出てくる「意識高すぎ!高杉くん」より、「細かすぎだよ!細杉【こますぎ】くん」のほうが一目置かれている(松本さんは別だ)。しかし、高杉くんがいなければ、将来の組織もビジネスも立ち行かなくなってしまう。そんな高杉くんの姿に、リーダーシップが重なって見える。

高橋 潔 立命館大学総合心理学部教授

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たかはし きよし / Takahashi Kiyoshi

1960年大阪府生まれ。84年慶應義塾大学文学部卒業、96年ミネソタ大学経営大学院博士課程修了(Ph.D.)。南山大学経営学部および総合政策学部助教授、神戸大学大学院経営学研究科教授を経て、2017年より立命館大学総合心理学部教授。神戸大学名誉教授。専攻は組織行動論と産業心理学。人事評価やコンピテンシー診断など、企業と人のマネジメントについて心理学的視点からアプローチしている。経営行動科学学会会長、日本労務学会常任理事、人材育成学会常任理事、産業・組織心理学会理事などを歴任。著書に『人事評価の総合科学』『経営とワークライフに生かそう! 産業・組織心理学』『組織行動の考え方』などがある。

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