東日本大震災、被災地企業の明暗「10年の記録」 ベテラン映像作家の記録がBCPの学習教材に
同セミナーで講師を務めた静岡県BCPコンサルティング協同組合の石井洋之理事(中小企業診断士)は、田中氏のDVD映像に災害時のBCP対応に必要な数多くの情報が含まれていることに着目。田中氏の制作にも協力した。
セミナーで使われた15分間の映像では、水産加工業5社の経営者がどのような課題を乗り越え、あるいは乗り越えられなかったのかについて語った内容が含まれている。
「災害が起きたとき、中小企業の場合、経営者がいなくなると企業が消滅する可能性があります。少ない社員が欠けてしまうのも痛手です。いちばん大切なのは経営者と社員の命です。避難準備を進めて訓練をしておくことが必要です」
困難を極めた被災企業の再建
これは当たり前のことのように聞こえるが、東日本大震災では経営者や幹部社員が死亡し、企業再建の足かせとなったケースも少なくない。「災害対策で最も重要なのは命を守ること。怪我をしないこと」(石井理事)。田中氏の映像に登場する5社は、経営者が生き延びたことで経営再建に踏み出せた。
しかし、再建の過程は困難をきわめた。DVDに登場する宮城県気仙沼市の水産加工業(フカヒレ加工販売)は「パソコンが(津波で)全部やられ、データなどが全部消えてしまった」と打ち明けた。そのため、取引先と連絡を取ることができず、再建の大きな支障になった。
再建資金として国が用意したグループ補助金申請の過程では想定外の問題も発生した。震災から数カ月後、被災地の企業が一斉に事業再開に動き出したため、資材価格が急騰。DVD映像に登場した宮城県石巻市内のサバ関連製品の製造販売会社の社長によれば、「震災前に1枚200円程度だったコンパネ(コンクリート型枠用合板)が、1枚2800円に暴騰した」という。
補助金申請の際、申請書に記載した通りの建材や機械を使わなければならず、資材の値上がり分は金融機関からのさらなる借り入れとなる。そのことが経営者を苦しめた。
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