静岡リニア「水全量戻し」にこだわる知事の打算 JRに断固反対か、それとも政治判断に持ち込む?
上原淳鉄道局長と江口秀二技術審議官が昨年12月の第7回有識者会議以降、第8回、第9回と大井川流域に足を運んで、県の頭越しに流域10市町の首長に有識者会議の状況を説明しているが、川勝知事はそれについても厳しく批判した。
「自分たちの説明を理解していただいたなどと、あたかも住民に対する理解ができているごとくコメントをされている。押し切ろうという姿勢が見える」
川勝知事のこの発言は、おそらく2月21日に静岡県島田市内で開催された流域10市町の首長との意見交換会後の記者会見で上原局長が発言した内容を指している。流域10市町は全量戻しにこだわっているのではなく、「まず話を聞きたい」という姿勢である。
翌日の新聞は「上原淳鉄道局長は有識者会議の議論について『流域市町からは納得とはいかずとも、ご理解いただけた』という認識を示した」と報じた。実際の上原局長の発言は、第8回の有識者会議で議論のプロセスを首長に説明したことを伝えたうえで、「こういうことを説明しているということは首長の皆さまからは納得とはいかずとも、ご理解いただけた」と発言している。
上原局長が説明して10市町の首長が理解したのは議論の結論ではなくプロセスであり、説明を聞いた首長たちも同じ認識を示したのだが、川勝知事はそう捉えてはいない。
「川勝知事は国を敵に回しているので、知事を批判すると国を支持しているように受け止められてしまう。それを県内のマスコミは嫌っているのではないか」と、あるジャーナリストが解説してくれた。川勝知事がこうしたメディアの特性を知り抜いたうえで発言しているとすれば、かなりの策士である。
ダム取水量調整には誰も手を付けず
有識者会議では全量戻しができなくても大井川の中下流域の水資源に与える影響は小さいという結論になりつつあるが、JR東海は全量戻しを実現する方法として、県外に流出した水と同様の山梨県内のトンネル湧水を10〜20年かけて大井川に戻す方策を提案した。「工事が水資源に与える影響は小さいという議論の方向ができつつある中での、全量戻しの一つの考え」(宇野護副社長)。ただ、まだアイデアの段階にすぎず、山梨県への根回しもないままの発表だったため、報道各社から集中砲火を浴び、川勝知事も「非現実的」と切り捨てた。
そもそも、トンネル湧水の全量戻しにそこまでこだわる必要があるのだろうか。300〜500万立方メートルのトンネル湧水を全量戻す方策を考えるよりも、年8000万立方メートルが山梨県側に流出している田代ダムの取水量を導水路が完成するまでの間だけ調節するよう東京電力と交渉するほうが手っ取り早い。
だが、難波副知事は「JR東海の工事に起因する問題なので、県が東京電力と交渉するべき問題ではない」と突き放す。当のJR東海も「県と東京電力で話し合うべき問題だ」と消極的だ。現実的な解決策に誰も手を付けようとしない。
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