静岡リニア「水全量戻し」にこだわる知事の打算 JRに断固反対か、それとも政治判断に持ち込む?

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川勝知事は地域住民の意見を代弁しているということからもわかるとおり、本当に重要なのは大井川中下流域の地域住民の理解を得ることだ。では、地域住民の理解を得たことをどうやって確認するのだろうか。全員一致で合意することはありえないし、多数決で決めるのだろうか。

この点を流域市町の一つである島田市の染谷絹代市長に尋ねると、「半分超えればいいとか、1人でも反対すればだめということではなく、県とJR東海と流域市町の間で何らかの協定を結ぶことが理解を得るということにつながる」という。この発言を言葉どおり受け取ると、最後は政治的な判断で決まるということになる。

難波副知事は昨年10月2日に日本記者クラブで行われた会見で、全量戻しについて「1滴も漏らさないというのはゼロリスクなので、ありえない」としたうえで、県外に流出する水量がはっきりしない段階では、「どの程度だったらいいのかという落とし所をさぐることもできない」と発言した。裏返せば、県外流出量が明らかになった現段階であれば、落とし所をさぐることは可能ということになる。

実際、川勝知事は今でこそ封印しているものの、2019年6月には「工事を受け入れるためには代償が必要」と話し、落とし所があることを示唆していた。

水資源問題が解決したとしても、その後にはさらに厄介な南アルプスの生物多様性の議論が控えている。難波副知事は、水資源問題の議論の進捗状況について「(登山にたとえれば)8合目まできた」と述べたが、川勝知事は、生物多様性も含めると「まだ1合目。頂上まで行けるのか」と話す。

つまり、落とし所をさぐるのは生物多様性の議論を踏まえてということになる。JR 東海は一刻も早く工事を始めたいが、県に時間的な制約はない。

「落とし所」は政治的交渉か

3月25日、名古屋鉄道の安藤隆司社長が名古屋市内で会見を行った。リニアが開業すれば名古屋は東京と大阪を結ぶスーパーメガリージョンの中心となる。市は国際レベルのターミナル駅形成を目指し、名鉄も駅周辺の再開発計画の策定に力を入れる。

2027年のリニア開業が不可能になった今、川勝知事に伝えたいことはないか。こんな質問に、安藤社長は「リニアは名古屋に限らず全国の経済、社会の発展にとって非常に大事なもの。実現に向けて計画どおり動いてほしい」と答えた。リニアに関係する全国の関係者が同様に考えているはずだ。

川勝知事は23日の会見で「流域60万人以上の県民のみなさま、南アルプスを愛する世界中の人々のご懸念が晴れるまでは、私がチームを離れるのは極めて無責任」と話し、大井川の水問題が解決するまでは知事の職にとどまる意向を示した。この発言は7月に任期満了を迎える川勝知事が続投への意欲を示したとも取れる。

科学的、工学的な議論の積み重ねによる解決の道のりは長く、遠い。JR東海が静岡工区のリニア工事を一刻も早く始めたいのであれば、落とし所をさぐる政治的交渉が必要になる。だが、知事選を控えた川勝知事のほうからそれを持ちかけることは絶対にない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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