民主党政権の「3.11」対応に見る日本の現在地 脱原発に向け試行錯誤の中、抗議運動も広がる

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そもそも、1955年12月に制定された原子力基本法の第2条には、「原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする」とある。「平和の目的に限り」という文言は、核技術の軍事転用を禁じるものだ。

改正では、原子力基本法の第二条に次の条項が追加された。「前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする」という条項である。

このうち、「我が国の安全保障に資すること」という文言は自民党の主張を取り入れたものだった。

「安全保障」の文言を付け加える意味

なぜ「安全保障」という言葉を付け加える必要があるのか。原子力発電は核兵器とも関係する技術であり、そこで「安全保障」という言葉を使うことは、従来の原子力基本法の精神を逸脱するものであり、海外からも警戒されるのではないか。明言はされていないが、潜在的核保有の意図の表れとして理解することも不可能ではないだろう。

2012年9月6日に、野田内閣の閣僚たちによる民主党エネルギー・環境会議が核燃料サイクルの見直しを政府に提言した。しかし、民主党の提言は六ヶ所村村議会と青森県知事から強い反発を受ける。改めて簡潔に整理しておこう。

六ヶ所村と青森県と日本原燃は、再処理事業が困難になった場合、使用済み核燃料の施設外への搬出を行うという覚え書きを交わしていた。この覚え書きに基づき、六ヶ所村村議会は、9月7日に意見書を可決する。意見書の内容は、政府が再処理事業から撤退するならば、使用済み核燃料を搬出し、英仏から返還される放射性廃棄物を受け入れず、さらに国に損害賠償を求めるというものだった。

「覚え書き」に基づいた「意見」であって法的な裏付けはないが、非常に強い圧力ではある(長谷川公一「核燃料サイクルと『六ヶ所村』」)。

強い反発を受けたエネルギー・環境会議は、はやくも14日に「再処理継続」へと転じる。その結果、同会議がまとめた「革新的エネルギー・環境戦略」は、一方では「2030年代に原発稼働ゼロ」を明記しながら、他方では再処理を続けて核燃料サイクル計画を維持するという「戦略」になった。

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