米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、自身と金融当局者がこの10年に完全雇用の意味について多くを学んだと話す。記録的な経済悪化からの回復を見通す今、「パウエル・ダッシュボード」と呼ぶこともできる一連の新たな雇用指標に当局者は注目している。
パウエル議長は最近、複数のデータを取り上げ、ニュースの見出しとなる数字だけでなく、労働力の最も脆弱(ぜいじゃく)な部分に当局が焦点をシフトさせたことを明確にしている。5日発表された2月の雇用統計を含め、新規のデータを踏まえて当局がどの程度の期間にわたり政策金利をゼロ付近に据え置くかを推測する上で、FRBウォッチャーが把握すべき重要な展開だ。
過去回復に時間がかかった雇用指標に注目
このアプローチは、大不況で生じた労働市場のたるみの判断に当たりイエレン前FRB議長が注目したとされる複数の指標から成る「ダッシュボード」の進化形だ。FRBウォッチャーらはこのダッシュボードを基に求人倍率や解雇率、不完全雇用率、労働力全体における長期失業者の割合などの統計に注目した。
それに対しパウエル議長が重視する統計リストは、黒人の失業率や低賃金労働者の賃金上昇率、大学卒業者でない人々の労働参加率など、過去の例に照らして、もっと広範な指標よりも回復に時間がかかったカテゴリーだ。
元FRB当局者で現在はUBSの米国担当チーフエコノミストを務めるセス・カーペンター氏は「かなり注目すべき変化だ」と指摘。完全雇用のこうした新たな定義は、「所得分布のあらゆる部分で企業が労働者獲得を目指し競争する状況が見え始める」までは、経済がそうした状況に達したと判断できないという認識が当局者の間で深まりつつあることの表れだと分析した。