アメリカには貧しい家庭で育っても社会ではい上がれるルートがある
――日本とアメリカの人材育成の違いについては、どうお考えですか。
アメリカを見ていてすばらしいと思うのは、大学入学時に教育資金を支える多くの奨学金制度があることです。貧しい家庭で育っても社会ではい上がれるルートがある。そして、実際にはい上がって成功した人がまた奨学金として資金を提供してくれる仕組みがある。確かにアメリカは格差社会であり、実際に貧富の格差は大きいのですが、貧しくとも能力のある人を上に引き上げるセーフティーネットがあるのです。それを支えているのが寄付です。日本でも公の社会保障だけでなく、民間の力を生かすためにどうすればいいのか考えるべきだと思います。
――アクティブラーニングなどを取り入れた新学習指導要領など、現在の教育改革をどのように見ていらっしゃいますか。
勉強ができる子はいいのですが、そうでない子をどのようにサポートしていくのか。そこには配慮が必要でしょう。また、先生たちも書類提出など業務の負荷が大きいと聞いています。その点、子どもたちにもっと寄り添う時間を割けるように、業務のデジタル化を図るなど効率化を進めるべきです。そのためにも、もっと民間の知恵を使ったほうがいいと思います。
小中学校の児童・生徒に1人1台の端末を整備するGIGAスクール構想についても、私は構想段階から関わってきましたが、大事なのはハードではなく、教育を推進するソフトです。端末を配って終わりではありません。確かにこれから多くの問題が出てくるかもしれませんが、一つひとつ解決していく姿勢が欠かせません。オンライン教育は地域間の教育格差を縮小するための手段の1つです。世界的にデジタル化が進む中、日本が教育を改革するうえでオンライン教育は必要不可欠なものです。いかによき未来をつくれるのか。一芸に秀でる才能を育てる仕組みができるのか。現状ではクエスチョンです。まさにオンライン教育の真価がこれから問われています。
私は、先生たちが子どもたちを教育現場で指導していく、そのご苦労をもっと世間の方々に発信してもいいのではないかと思っています。先生たちの思いがもっと世間の方々に伝われば、協力したい人も出てくるはずです。どのようにすれば教育を前進させることができるのか、どう今まで以上によい教育が実現できるのか。将来の日本を支えるのは教育です。その重要性を皆で共有し、コミュニティーなどさまざまな場を通じて協力し合っていくことが必要だと考えています。

サントリーホールディングス 代表取締役社長 1981年三菱商事入社。91年ハーバード・ビジネススクール修了、MBA取得。2002年ローソン代表取締役社長CEO。14年より現職。経済財政諮問会議議員、経済同友会副代表幹事など歴任
(撮影:今井康一)
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら