――こうした人材を育成するために、現状の教育を底上げするには何が必要でしょうか。
教育のキャリアパスを拡大していくためにも、その基本となる義務教育の部分を変革すべきだと思います。とくに今、教育格差の拡大が大きな問題となっています。実際、都心においても、小学校の段階から教育格差が顕在化しています。まずはこの事実をきちんと認識しなければなりません。
そして、教育格差を縮小するためにもオンライン教育をもっと拡大すべきです。オンラインであれば地方でも、例えば海外の大学の先生の話を聞いて議論することができる。第一線で活躍する大学教授や経営者から教科書に載っていないような話を聞いて、自分もああなりたい、こうなりたいと子どもたちが将来を思い描けるような機会をもっとつくるべきです。
こうしたオンライン教育を活用するには、先生がモデレーターとしての役割を果たすことも重要です。先生自身がわからないから教えられないのではなく、もっと胸襟を開いて自分も学んでみようといった姿勢を持つことです。先生たちの可能性を高め、子どもたちの知見を広くさせるためにも、先生自身がモデレーターやインストラクターの役割を果たすことが大切だと考えています。
さらに言えば、自分の望む教育を享受できない子どもたちを支援することも欠かせません。教育格差によって自分の運命が決まってしまうことがないようにしなければならない。そのためにも義務教育はコミュニティー全体で対応すべきです。

企業もコミュニティーの一員です。地域のコミュニティーで豊かな人材が育つことは企業にとっても大きなメリットになります。どんなコミュニティーをつくっていくのか。今は若い世代を中心に教育支援活動を行っている人たちも増えています。国と企業が一緒になって教育系のNPO、NGOを支えるなどの手をもっと打っていくべきだと思います。
――新浪社長はアメリカ留学の経験がありますが、日本の教育のいい点、悪い点についてはどうお考えですか。
日本の基礎学力は海外と比べても高いと思います。しかし、その一方で世界との接点をもっと増やすことも必要でしょう。世界の中でも、日本人は好かれていますし、海外の人も日本に興味を持っています。その意味でも、日本のことが語れるように、もっと歴史や文化などを勉強すべきだと思います。
歴史の勉強では、現代史を分けて勉強すべきだと考えています。現代史こそ、今の海外情勢を知るうえで最も必要なものであり、中高の段階から授業数を増やして勉強してほしいのです。ちなみに私は、もともと物理や数学など理系科目が得意だったのですが、歴史がとても好きになって文系に転向した人間です。高校のころは歴史学者になりたくて、文学部に入りたいと考えたこともあります。
社会人になれば歴史の重要性はますます増していきます。なぜ人間は同じ失敗を犯すのか。なぜ戦争を起こすのか。歴史はビジネスやマネジメントにも生きてくるものです。ちなみに名著として知られる『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』は私の愛読書の1冊となっています。歴史はリーダーを育てるためのものでもあります。これから日本を支える人材を育成するうえでも、歴史の勉強は欠かせないと考えています。