東大研究者が発見した「老化細胞」除去薬の衝撃 100歳まで健康に生きることが「自然」な時代へ
つまり、20歳の死亡率と70歳の死亡率が変わらない。「ピンピンコロリ」の一生を送るすごい生物がたくさんいるということです。
興味深いのは、ゾウです。ゾウは、ストレスが加わったときに、自らの体内で老化細胞になる前に傷ついた細胞を死滅させてしまうと言われています。われわれが開発したような薬を飲まなくとも、もともとそういうシステムを体内に持っているわけですね。
ゾウにはがんがないというのも有名な話です。がん細胞のような悪い細胞をすぐに死滅させてしまうからです。がんのあるゾウを探すのは、非常に難しいと言われるほどです。
悪い細胞を体内に残しておくから病気になるわけですが、ただ、生態系全体として見ると、ヒトは、老化細胞を残しておくことに、個体としてなんらかのメリットがあり、それが進化の過程で有利に働いているという部分もあるのかもしれません。
老化によって臓器組織の機能が低下し、老年病を引き起こすなどして健康寿命を決めているメカニズムと、生物種の最大寿命そのものを決めているメカニズムはまったく次元が違うはずです。
老化研究は、まだまだわからないことが多く、あくまでもわれわれ自身である「ヒトの老化」という範疇から出ていません。今後ますます俯瞰的に理解していくことで、より研究が深まっていくでしょう。
ヒトへの実用化までのハードル
老化改善の薬は、これからヒトへの実用化に向かっていきますが、まだまだハードルがあります。
ひとつは、本当にその薬に副作用がないか、もっと効果的な薬はないかという短期的なハードル。そしてもうひとつは、まだ個体の老化はすべてが解明されていないという長期的なハードルです。
われわれの研究もそうですが、これまでは、培養された細胞を使った研究ばかりで、個体の中での研究はほとんど行われていません。老化細胞が、個体の中で加齢や老年病の発症に関わっているのは確かですが、現実には、個体の中はまだブラックボックスなのです。個体のいったいどこに老化細胞が蓄積しているのか。それがどのような機能や性質を持ち、どう作用しているのかはわかっていません。
これからは個体の中での老化細胞の働きを解明する必要がありますし、そのような研究が進めば、もっと優れた標的や、もっと優れた治療法が見つかるだろうと僕は信じています。
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