夢も目標もない若者を変えた「ある趣味」の正体 「レールから外れる人生」を恐れなくなった理由

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とはいえ、特に夢や目標がないのは変わらなかった。大学院卒業後は、エンジニアとして働き始める。

「希望を持って社会に出たわけではありませんでした。やりたいことがあれば、これだけ働いて、実力をつけて、独立する、とかキャリアプランを描けるんでしょうけど、全然そういうのがなくて……」

没頭できる何かを探していた。そんな渇望感は、もしひとつボタンを掛け違っていたら宗教やネットワークビジネスに答えを求めていたかも知れないと、丹治さんは振り返る。

「ネットワークビジネスは一時期、仕事関係者や合コンで出会った女性などに集中して誘われたことがあって、セミナーに行ってみたことがあります。結局合わないと思ってやらなかったけど、ちょっと何かが違ったら『これが生きがいだ』と思っていたのかも」

丹治さんの人生を変えた「ブログ」

最終的に、丹治さんの没頭できる何かとなったのはブログだった。

震災以降、興味のある場所に出かけて写真や記録に残していたものをブログに書くことにした。2015年に自分でドメインを取得してブログ「知の冒険」をスタートする。

「最初はせっかくあちこちまわっているから記録に残そうくらいの感覚で。初期の記事はがっつり人に話を聞いたりしていないから、内容が薄いですね。少しずつ、人に話を聞いたり、資料や古地図を調べたりと、ちゃんとやるようになってきました」

丹治さんの自宅の作業環境(提供:丹治俊樹)

元来人と話すのが得意ではなかった丹治さんだが、記録を残すようになったことで、積極的に人に話しかけるようになった。博物館、歓楽街、戦跡、宗教施設、遊郭、飲み屋、あらゆる場所で出会うあらゆる人たちに話を聞いた。

「訪れた場所での人との出会いが魅力でした。得た知識は忘れることもあるけれど、人と会った思い出はいつまでも残るので」

いつしか会社にいる時間以外のすべてを費やすように、すっかりブログにのめり込んでいく。世の中にあるまだ自分の知らない世界や人を知っていくことは、楽しみであり喜びだった。

ブログをはじめて5年が経った2020年、本の出版が決まる。博物館にテーマを絞って書くことになった。続けてきたことが一つの形になることに、感慨深い思いだったという。

少し前からフリーランスのエンジニアとして働いていたため、委託先の仕事が一段落したタイミングで取材旅に出た。

取材のために中古車を購入。3カ月の取材は走行距離12,300キロ、訪れた博物館は128ヵ所にも及んだ。

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