綾瀬はるかの「サイコパスな男」に魅入られる訳

連ドラにファンタジーが5作もそろった理由

たとえば、「天国と地獄」なら、もし綾瀬はるかがサイコパスの男殺人鬼を、高橋一生が正義感の強い女刑事を演じたら……、「知ってるワイフ」なら、もし妻を入れ替えて人生をやり直せたら……、「江戸モアゼル」なら、もし江戸の花魁が令和の現代に現れたら……などと誰もが頭に思い浮かべることができます。

ストック型の動画配信サービスが発達した今なおテレビはフロー型のメディア。連続ドラマは「第1話を見てもらわなければはじまらない」「見てもらえなければ残りの2カ月半を棒に振ってしまう」という課題を抱えているため、作り手にとって、“入口としてのわかりやすさ”は欠かせない要素となっているのです。

もともとファンタジーに限らず、このような「もし〇〇だったら……」はドラマの定番であり、今冬も、もし中学校に学校内警察がいたら……という設定の「青のSP(スクールポリス)-学校内警察・嶋田隆平-」(カンテレ・フジテレビ系)などが放送されています。

ただ、こちらはファンタジーではなく、リアリティのある設定。「本当にいるかもしれない」というリアルとファンタジーの間を狙った作品であり、校内問題などが生々しく描かれています。

本当に怖い人はいなかった「半沢直樹」

一方、前述した5つの作品は、ファンタジーによる「架空の話」という感覚があるため、生々しい描写があっても、どこか気軽な気持ちで見ることが可能。たとえば、どんなに殺人鬼やゾンビが怖くても、あるいは、切なく悲しいストーリーでも、頭の中に「架空の話」という感覚があるため、楽しみを見い出しながら、どこか気軽に見られるものです。

これは裏を返すと、「作り手が思い切った脚本・演出を仕掛けられる」ということ。「あくまでエンターテインメント」という前提のもとに、たとえば、サイコパスはより悪く、モンスター妻はより激しく怒り、江戸時代の花魁はより妖艶になどと極端に描くことができるのです。

近年、リアリティのある設定の作品が放送されるたびに、「つらぎて見ていられない」「重すぎてリタイアした」などの声が飛び交い、視聴率も評判も低迷するケースが続いていました。コロナ禍の重苦しいムードが続く現在は、さらにその傾向が強くなっているだけに、ドラマの作り手たちにとっては、「いかにつらさや重さを感じずに見てもらうか」は、重要な課題なのです。

一例を挙げると、「半沢直樹」に登場した悪人たちに、リアリティのある悪人や本当に怖い人はいたでしょうか? ドラマの作り手たちは、視聴者のためにあえてリアリティを薄め、けれんみを前面に出すことで、悪人もエンターテインメントとして楽しめるものにしているのです。

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