進化続ける「山形新幹線」、冬場の安定性増すか 駅改良、トンネル、新型車両に奥羽新幹線構想

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加えて自然災害という弱点は前記のとおり。また、東日本大震災で東北新幹線や仙台空港が被災した際には山形経由や山形空港が代替の役割の一端を担い、以後、輸送の冗長性を確保しておく重要性がクローズアップされた。

そこで、定時性・安定性・速達性に優れたフル規格の奥羽新幹線と羽越新幹線が不可欠であるとして、もともとは奥羽と羽越それぞれ別だった組織を1つにした「山形県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟」を2016年に立ち上げた。さらに富山から青森まで両新幹線の関係6県でチームを組織して効果や課題等を調査・検討、そして県民の意識醸成のため出前講座やキャラバンを展開しているところ。

事業採算性を判断するB/C(費用便益比)の算定はコロナの影響で関係者が集まれず遅れたが、2020年度中には出す方向。複線高架のフルスペックは厳しいとわかっているので、一部単線化や高架の盛土化などの新たな整備手法も考える――との説明だった。

奥羽・羽越新幹線の可能性は?

さて、秋の落葉で列車順序の変更というニュースが届いたと思えば、その措置が終了した直後に東北の内陸は大雪に見舞われ、まる1週間、さらに年末年始も奥羽本線は除雪が追い付かずに山形新幹線区間を含めてどこかしらが不通という事態となった。

『鉄道ジャーナル』2021年3月号(1月21日発売)。特集は「奥羽本線物語」(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

それが決して珍しくないことは、県やJRの説明で明らかだ。その寒波の大雪で関越自動車道で2000台もの立ち往生が発生した時も上越新幹線は何事もなく走っていたから、当地でフル規格新幹線を希求する心情もうなずける。だが、国土の主要交通網を高速道路で張り巡らし鉄道は贅沢品と捉えていそうな国の財務側の考えを耳にすると、奥羽新幹線の可能性はいかばかりだろう。

また、現在の山形新幹線はその改良に地元自治体がそれぞれに関与しているため、とてもこまめに停車する。山形県内はきめ細かく、そしてエリア外では東京とスピーディに直結というスタイルは新在直通方式ならではだが、これが新たな新幹線だとしたら大幅に駅が絞られるのは間違いない。どちらが地域に有意義と判断されるのだろう。

現状、国内のあちこちの在来線が時代にそぐわなくなってきたことは間違いない。だが、それを捨てずに線路の改良を重ね、最高速度では時速160〜200km運転あたりに対応した設備として、一定の速達効果や安定性向上を得るアイデアもあるはずである。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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