ミュルダールの経済学 福祉国家から福祉世界へ 藤田菜々子著 ~改革を目指し続けた姿勢とその基礎の歴史認識に学ぶ

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ミュルダールの経済学 福祉国家から福祉世界へ 藤田菜々子著 ~改革を目指し続けた姿勢とその基礎の歴史認識に学ぶ

評者 正村公宏 専修大学名誉教授

 グンナー・ミュルダール(1898~1987年)は評者が大きな影響を受けた経済学者である。ミュルダールの周到な社会研究への情熱の源泉は社会改革への強い意志であった。ミュルダールは、スウェーデン福祉国家の建設にかかわり、アメリカとインドの差別と貧困の問題を研究し、福祉国家から福祉社会・福祉世界へという歴史的展望を語るようになった。

著者は、「社会研究者は社会の支配的価値判断にとらわれないように注意して自己の選択した価値判断を明確に提示する必要がある」という30歳のミュルダールの主張から出発し、差別と貧困の観察を通じて「諸社会現象のあいだの累積的相互作用」を重視するようになるまでの過程を見事に跡付けている。

現実の経済を観察して、選択されるべき体制や政策を提案する仕事をするようになった評者は、同様の仕事をしてきた先駆者の著書を読むように努力した。ミュルダールの『福祉国家を越えて』『経済学説と政治的要素』を読んだのは、1960年代である。邦訳書に疑問をもち、原書を取り寄せて読んだりもした。

その理論が仕事の役に立ったというのとは違う。評者はいろいろな理論モデル(模型)を寄せ集めたアメリカ流の教科書を信用していない。その種の理論モデルを使って安直な議論をする日本の経済学者のいいかげんさは評者の不信を決定的にしていた。

ニューヨークでミュルダール教授に会ったのは75年である。評者が「ラディカル(根源的)な思考にもとづくグラデュアル(着実)な改革を唱えているが、日本の野党はマルクス主義にとらわれ、耳を貸そうとしない」と自らについて語ったのに対し、教授は「きみの主張は正しいよ」と応じてくれた。

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