富士急「格安賃料」、山梨県知事が下した決断 自衛隊・北富士演習場への「二重貸与」も判明

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――この問題を話し合う県議会の特別委員会に、歴代の知事や遺族による意見書が提出されています。それによれば、山本栄彦元知事(在任期間:2003年2月~2007年2月)は「不動産鑑定に基づいて賃料を決定するとの説明を受けたことを覚えている」とする一方、横内正明元知事(2007年2月~2015年2月)の遺族は「和解案は、過去の県政史すべてを非と認め損害賠償請求に応じる和解であり、兄の名誉にかけて絶対に認めるわけにいかない」としています。

一方、後藤斎前知事(2015年2月~2019年2月)の意見書では、専門家で構成される県森林総合利用協議会において、専門的な見識をもって県有地の貸し付けや賃料について協議してもらい、「貸し付け契約の更新が妥当である」との判断がなされたことや、県議会において本件を含めた予算案が承認されたことなどから、当時の自身の判断に故意または過失は一切ないなどと主張されています。

山本元知事、故・横内元知事は任期中に契約更新がなかったことから、この問題について詳しくご存じでなかったのかもしれない。最近になるまで不動産鑑定評価基準に基づく鑑定は実施されていない。

一方、後藤前知事には、私が衆議院議員だった時分に何度も賃料の決め方に問題があると指摘させていただいた。ところが、耳を傾けていただけなかった。後藤前知事の在任期間中に契約更新を迎えたが、地方自治法に基づく適正な手続きが行われなかった。そうした経緯を踏まえて、住民からは行政訴訟が起こされた。

2020年11月30日に県が示した当初の和解案では、1997年度以降の知事の責任を検証するという内容だったが、12月15日に提案した新たな和解案では以上のような事情につき原告サイドの理解もいただき、2017年度以降の行為を対象とする内容に改めた。

財源は少人数教育と介護待機ゼロに充当

――県議会では、知事が提起した見直し方針について、「提案したその日に即決しろというのは議会軽視もはなはだしい」「説明が不十分である」「突然の方針転換で富士急にあんまりだ」などといった指摘が相次ぎ、議会での和解案の承認に待ったがかかりました。

継続審査となったことを踏まえて、地元紙に「知事の強行姿勢に(議会が)反発」などといった見出しが載ったが、真意が伝わっていない。議会をまじえて議論し、議会の意見を結論に反映させることを目的とした和解案だ。

議会への説明の中で、(裁判官とのやり取りなどの説明に関して)一部に不正確な点があったことについては反省するとともに正確を期したい。県議会には、あくまでも議論の大前提は県民利益の実現であることから、適正な価格とは何かについて、冷静かつフェアに議論していただきたい。

――ところで、賃料の是正が実現した場合、それによって得られた財源はどのように活用していくお考えですか。

県知事選で公約した少人数教育および介護待機ゼロの実現に向けての予算に充当したい。

小学校での25人学級実現には、教員の追加配置などで年間に約30億円、特別養護老人ホームなど介護施設の待機者をなくすには年間6億円の財源が必要だ。捻出すべき金額は合計36億円にのぼるが、現状でメドが立っているのは6億円にとどまる。

現下の山梨県の財政状況において、まとまった金額を継続的に期待できる独自財源は県有地の賃料以外にない。それだけに今回の県有地の賃料を是正することはきわめて重要であり、不退転の決意で取り組む。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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