河瀨直美監督が目指す「1000年先にも残る映像」 東京五輪公式映画の監督が後世に伝えたいこと

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もし開催できたら、開会式で国立競技場にアスリートが集うだけで本当に感動的だと思います。過剰な演出はいらない、むしろシンプルなアスリートファーストの形であるべきです。

五輪映画に「宇宙から見た地球」の視点も入れたい

五輪といえば、世界の人が1つの場所に集まって行う地球大運動会。平和に向かっていくための人類の栄ともいえる。スポーツを通じて、戦うのではなくて競い合い、リスペクトし合うところに本来の意義がある。今回の場合は、そこに「コロナ禍」という要素が加わっているからこそ、より本来の理念を実感できるはずです。

かわせ・なおみ/生まれ育った奈良を拠点に映画を創り続ける。一貫した「リアリティ」の追求はドキュメンタリー、フィクションの域を越えて、カンヌ映画祭をはじめ、世界各国の映画祭での受賞多数。代表作は『萌の朱雀』『殯の森』『2つ目の窓』『あん』『光』など。最新作『朝が来る』は、Cannes 2020 オフィシャルセレクション、第96回アメリカアカデミー賞国際長編映画賞候補日本代表として選出、第45回報知映画賞監督賞受賞。故郷奈良にて、「なら国際映画祭」において後進の育成にも力を入れる。東京2020オリンピック競技大会公式映画監督、2025年大阪・関西万博のプロデューサー兼シニアアドバイザーを務める他、CM演出、エッセイ執筆などジャンルにこだわらず活動を続け、プライベートでは野菜やお米を作る一児の母。公式HP公式Instagram(@naomi.kawase) (写真:aratadodo)

もっとも、今の世界では大国同士の分断が起こり、世界の情勢は緊迫しています。国際連合やWHO(世界保健機関)などの国際機関の機能は弱体化し、よりどころを失いつつある人類は、コロナによってこの先の未来をどこに踏み出すのかを試されています。人類全体のことを考えられる人が、若い世代から出てきてほしいと願っています。

五輪の映画に「宇宙から見た地球」という視点も入れようと思っています。宇宙飛行士の方とブレストしながら気づくことが沢山あります。宇宙から見た地球は本当に青く美しく輝いているそうです。彼らは宇宙に出た瞬間に何か大いなる存在を感じ「サムシング グレート」と呼ぶ。「地球がこんなに美しいのに、なんで争っているんだ人類」と思えるそうです。こうした客観的な視点を入れることで、オリンピックの精神を広く世界にそして未来に届けることができたらと思っています。

――今後はどのような映画を撮りたいですか。

1000年後の人にも見てもらえる映画を創りたい。奈良の大仏さんは、約1000年前に作られて今も私たちの前にいらっしゃる。さらに、東大寺には膨大な古文書が残っています。記録は、残すことで事実になる。

私も映画を撮ることを通じて、この時代を切り取り、それを後世に伝えていきたい。「こんな大変なこともあるけれど、人間というのはいいものだよ」と、そのときに生きている人が「生まれてきてよかった」と思えるような作品を残したいです。

『週刊東洋経済』2020年12月26日・2021年1月2日合併号(12月21日発売)の特集は「2021年大予測」です。
印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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