外国人の人権は無視?知られざる「入管」の実態 2019年にはハンガーストライキによる餓死者も
面会時、電話や録音機器の携帯は認められないものの、筆記具を持ち込むことはできる。田中さんはまず収容者の体調を確認したうえで、話を聞きながらメモを取り、彼らの状況などを正確に把握することに努めているという。
「牛久には、難民性の高い人が収容されています。政治的、宗教的な問題など、理由はさまざまですが、長期収容されても退去に応じない人には、どうあっても帰国できない理由があるんです。
超過滞在中に日本人と結婚して、新しい家族ができている人、無国籍の人、労災にあって補償が得られるまで待っている人。こうした人たちが長期収容されていることは非常に問題だと思います」
宗教団体によるミッショナリー(伝道活動)とは異なり、「牛久の会」では面会にあたって特にルールはなく、活動は参加者個人の意思に委ねられている。
「私自身は、継続して同じ人に会うようにしています。その人がなぜ超過滞在になったのか、何をしたことでここに収容されているのか、どうしてこれほど長く退去令を拒んでいるのか。面会の数を重ねてだんだん打ち解けて、信頼関係ができてくると、相手もいろいろ事情を話してくれるようになるからです。そうなると、こちらもできる限りのことをしようと。そんな感じですね」
過去に数例あったものの、田中さんは仮放免(一時的に収容施設から出る許可をもらうこと)申請者の「保証人」を引き受けることはなく、会のメンバーにも勧めていないという。
「牛久の会では、仮放免だけでなく、その後の住居の保証人になることも、自分の住所を連絡先として提供することも勧めません。保証人になるのは、自分の生活をかけるに等しい大変なことです。1人に応じれば、また別の人も……となるわけで、個人の篤志で活動している市民団体の会員にとって、それは荷が重すぎます。
年末年始に一斉の差し入れをしたり、面会を重ねている人に電話カードを差し入れしたり。多くの方々にカンパを呼びかけることはありますが、企業の支援を受けているわけでもない私たちは、金銭的な援助もほとんどしていません」
2015年ごろから「長期収容」が始まった
長期収容をやめること、仮放免の保証金の金額を下げること、収容者の医療の質を改善すること……。これまで収容者にかわって牛久入管側の担当者に多くの要望を伝えてきた田中さんは、入管が長期収容を推し進めた時期について、次のように話す。
「牛久で仮放免が出にくくなったのは、オリンピック開催を口実に適正な外国人とそうでない外国人などと選別を始めた2015年ごろからです。法務省は外国人対策として、摘発・送還を徹底する方針を立て、何らかの問題を見つけて、外国人を牛久に収容するようになりました。
その一方、人手不足で労働者が必要な産業分野には技能実習生や、2019年からは特定技能というビザを新たに設け、日本に入国させようとしています。最大の契機は、2018年2月に当時の入管局長、和田雅樹氏の指示で、全国の入管の施設長宛に勧告が出されたことでした。これ以降、仮放免の審査基準だけでなく、仮放免を認められた人たちの動態調査もかなり厳しくなっています」