「変わらない地銀」追い込む菅首相の強烈な爆弾 政府・日銀が一体で大再編を後押しする事情

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それからわずか2日後の11月12日。今度は政府が、地銀や信金の経営統合や合併に対し、システム統合費用などの一部を補助する交付金制度を来年夏にも創設する方針が明らかになる。申請期限は2026年3月末までの5年間弱、最大で30億円程度となる見通しだ。

こうした政策がアメならば、政府はムチも用意する。2カ月前の9月中旬。金融庁の氷見野良三長官は地銀首脳とのオンライン会合で、公的資金による資本注入の要件を大幅に緩和した改正金融機能強化法の活用を検討してほしいと訴えた。

同法は経営責任や収益目標を求めなかったり、返済期限を設けなかったりと、銀行にとって使い勝手はよくなっている。だが、ひとたび公的資金が注入されれば、「再編を進めたい国の言うことを聞かなければならなくなる」(地銀幹部)ことは必至。経営の自主性が失われるのは目に見えている。

硬軟を巧みに使い分けながら、政府・日銀が一丸となって地銀を追い込む背景には、菅首相の存在があった。自民党総裁選挙前に「地銀は数が多すぎるのではないか」と発言、翌日に再編について「選択肢の1つ」と踏み込み、地銀に再編を迫ったのだ。

実は日銀も、この発言を受けて大手地銀に対し、「経費はどれくらい下げられますかね」とヒアリングを行っていた。「今振り返れば、準備していたのだろう」とこの地銀の幹部は振り返る。

前出の日銀元幹部も「政府はもちろん、日銀も前のめりになっているのは、明らかに菅首相への忖度。首相の本気さを感じ取り、歩調を合わせたのだろう」とみる。

しびれを切らす菅首相

菅首相がここまで踏み込むのは、地銀を取り巻く環境が劇的に変化し、存在意義さえ失いかけているにもかかわらず危機意識が薄いことに、いら立っていたからだ。

長引く超低金利政策で、貸出金利は大幅に低下。地域経済の縮小も相まって本業だけでは生きていけず、今後、赤字の地銀が増えるのは必至だ。そうしたタイミングで新型コロナウイルスが発生。感染拡大で企業業績の悪化は著しく、貸し倒れに備えた引当金など与信コストは増加傾向にある。おのずと地銀の健全性も劣化していく。

しかも、過去に注入された公的資金の優先株がすべて普通株に強制転換される「一斉転換」が2024年に迫っている地銀も少なくなく、返済できなければ実質的に国有化される危険性が高まっている。

にもかかわらず、地銀は変わろうとしない。第二地銀こそ減っているものの、第一地銀に関してはこの40年間、63〜64行のまま。長きにわたって金融当局が再編を呼びかけてきたのにだ。こうした状況に菅首相がしびれを切らし、〝爆弾〟を投じたというわけだ。

かつて、これだけ明確に地銀の再編について言及した首相はいなかった。それだけに、インパクトはすさまじいものがある。追い込まれた地銀に残された時間は少ない。

『週刊東洋経済』11月28日号(11月24日発売)の特集は「地銀 最終局面」です。
田島 靖久 東洋経済 記者

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たじま やすひさ / Yasuhisa Tajima

週刊東洋経済副編集長。大学卒業後、放送局に入社。記者として事件取材を担当後、出版社に入社。経済誌で流通、商社、銀行、不動産などを担当する傍ら特集制作に携わる。2020年11月に東洋経済新報社に入社、週刊東洋経済副編集長、報道部長を経て23年4月から現職。

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