コロナが奪った日本の観光産業の「明るい未来」 観光史上最大の「勝負の年」が台無しにされた

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人口が過密になった都市で出生率の低下がみられるのは普遍的な現象であり、何も東京など日本の大都市だけに限ったことではない。それだからこそ都市の繁栄は人口再生産力の高い地方から余剰人口を吸い上げ続けることで維持されてきたのだ。

しかし、いま地方は「食べていける場所」ではなくなりつつあり、余剰人口どころか消滅の危機と闘っている。地方の余剰人口を吸い上げることで都市の繁栄を支えるサイクルはすでに崩壊し始めているのだ。

この事態を受けて、国は地方で産業を創出し人口の流出を防ぎ、人口減少に歯止めをかけるという「地方創生」を2014年から進めている。当初は2020年をメドに、東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)から地方への転出を4万人増やし、地方からの転入を6万人減らすことによって10万人の転入超過を解消する計画だった。

ところが依然として東京圏への転入は増え続け、2019年には14万8783人にまで転入超過が膨れ上がった。このため政府も当初の目標を2024年に先送りせざるをえなくなっており、この問題の決定的な処方箋はいまだ見つかっていない。

そこで、先述のようにその地方創生の切り札と目されてきたのが観光産業なのである。近年の産業政策において観光が優先されてきたのは、観光産業の持ついくつかの特徴が現在、日本が抱えている課題の解決に特に寄与するものであるとみなされたからだ。

頼みの綱だった「観光産業」

すでに製造業の落ち込みなどを防げなかった日本にとって、観光産業は「伸びしろ」のある数少ない有望な成長分野であるということ。また他産業の拠点がどうしても大都市など限定された環境に一極集中しがちであることに比べ、観光産業では自然豊かな農山村や古い街並みを残す地方都市まで、さまざまな条件や環境を持った地域が拠点となりうるため、全国の幅広い地域が恩恵を受けることができること。そしてもう1つキーとなるのが交流人口という概念である。

いわゆる人口というときにはその地域に定住している人の数を想定するが、その定住人口に対して、交流人口とは通勤やイベント、観光などでその地域を訪れる人の数を指すものである。

もはや定住人口の増加を追い求めることが困難になった地域でも、交流人口を増やすことで地域を活性化させようというコンセプトのもと、近年とくに注目されるようになった。これについて観光庁は外国人観光客ならば8人、日本人宿泊客ならば25人で、定住人口1人と同程度の経済効果が生ずると推計している。

これらの理由から、避けがたい人口減少時代への突入を控えた崖っぷち国家である日本にとって、観光産業は最後の希望といっても過言ではないものだったのだ。

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