世界初のがん幹細胞標的薬、治験中止の波紋

大日本住友製薬の中期計画にも影響必至

新薬開発といえば、長い年月と費用をかけたとしても成功確率は極めて低いことが知られている。たとえ、承認申請前の最終段階である第3相に進んでいても、成功が保証されているものではない。にもかかわらず、株価が大幅に下がったのは、株式市場でもBBI608への期待が大きかったことの証左といえる。

多田社長はBBI608の効用をハチの生態でたとえてみせた(撮影:ヒラオカスタジオ)

BBI608は、がんを作り出すと考えられている細胞である「がん幹細胞」をターゲットとする薬だ。製品化に成功すれば、世界初の画期的な薬になるはずだった。

2013年1月24日、NHK大阪のニュースで、国内でも臨床試験の申請に向かうことが報じられるやいなや、大日本住友の株価は急騰。23日の終値は1098円だったが、25日には高値で1570円まで買い進まれた。

同年4月10日には、多田社長が東洋経済のインタビューに応じ、「がん幹細胞が女王バチ、がんの細胞が働きバチというイメージ。いくら働きバチを殺しても、1匹の女王バチが生きていれば、次のがんが出てくる」と、がん幹細胞を直接たたくことで転移や再発を防ぐ可能性、開発の意義や狙いを説明していた。

抗がん剤との併用に活路

もっとも、中止となったのはこの試験だけであり、大日本住友はこれによって結腸直腸がんを対象とした単剤開発を断念すると決めたわけではない。

腫瘍の縮小を評価するDCRについては基準に達しなかったが、そもそも専門家の間にも「がんの大きさと生存率の間には、必ずしも相関があるわけではない」との意見もある。それもあって、大日本住友では、本試験に参加した約280例について、死亡原因ががんによるものがどうかに関係なく、治療を受けた患者が生存している期間を示すOS(全生存期間)で評価を行い、このデータ解析も踏まえて、今後の方針を考えていくという。

またBBI608は、がんの通常細胞にも作用するものの、その最大の特徴はがん幹細胞を直接ターゲットとする点にある。したがって、単剤よりもむしろ、通常の抗がん剤と併用したほうが効果が出やすいという推測が働く。

実際、大日本住友では、結腸直腸がんの単剤のほかにも、固形がん、消化器がん、結腸直腸がんでさまざまな抗がん剤との併用での治験を行っている。中でも胃がんは、結腸直腸がんに続いて第3相の国際共同治験に進んだ2番目のプロジェクトとなっている。BBI608とは異なる薬である「BBI503」でも、固形がん単剤での第1相試験を実施中だ。

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