座席は「新幹線超え」、リニア改良試作車の実力 車両開発は進むが開業時期は見通せないまま

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一方で、従来型では前の座席の背面にあったテーブルが、改良型では肘掛けと連動する小型のインアームテーブルとなった。列車内でノートパソコンを使う場合、背面テーブルのほうが安定性は高そうだが、「テーブルが手元にあるほうが使いやすいという声もある」(JR東海)とのこと。小型のインアームテーブルのほうが軽量化につながるというメリットもあるが、この点については比較検証が行われるはずだ。

また、改良型試験車の座席にはUSBコンセントが装備されている。これも「今の時代は電源コンセントでなくてもいいのでは」(JR東海)ということで採用された。リニアの乗車時間は短いため、充電の必要性は少ないという見方もあるが、この点も今後の検証材料になる。

500km走行の乗り心地は

さて、改良型試験車の乗り心地はどうか。出発したリニアは当初は車輪で走行するが、40~50秒後に時速150km程度に到達すると、磁気浮上走行へと変わる。この間の振動はほとんど変わらない。磁気浮上走行になると騒音の響きが変わるが、音の強弱には変化は感じられない。

出発から約2分30秒後に時速500kmに到達したが、とくに振動や騒音に変化はない。振動は在来線なみ。騒音は旧世代の新幹線といった印象だ。耳ツンは個人差があるにせよ、トンネル内を走る新幹線と同レベルで特段きつい印象はない。

約2分間、時速500kmで走行したあと、徐々にスピードを落とし、時速135~140kmになったあたりで再び車輪走行に戻り、およそ7分50秒で42.8kmを走り終えた。この乗り心地なら営業運行に問題ないと思われるが、時速500kmで走る列車同士がすれ違ったときはどうなるかなど、今後もさまざまな検証が行われる。

L0系は2002~2008年に走行した試験車両「MLX01-901」に続いて2013年に登場した。それから7年後に登場した改良型試験車について、「現時点で最もいい車両を造ったと思う」と、大島所長は太鼓判を押す。

JR東海は2022年度末に技術開発を完了し、走行試験で得た知見を元に、実際の営業運転で使うリニア車両の仕様の詳細を決定したいとする。ただ、このスケジュールは2027年開業を前提としたものだ。

リニア静岡工区の本格着工が始まらない中、2027年の開業目標は困難な状況だ。もし開業時期が数年単位で遅れることになれば、車両開発スケジュールと開業時期にタイムラグが生じる。その時間的余裕を生かして2023年度以降にリニア車両をさらにブラッシュアップすることも可能だが、当然ながら開発費用はその分だけ増える。では、予定どおり2022年度末で技術開発を終えるか。足元で収益減少に苦しむJR東海にとっては、悩ましい問題だ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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