テスラに日本企業がついていけない決定的理由 パナソニックもテスラも知る男が語り尽くした

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山田喜彦(やまだ・よしひこ)/慶応大卒業後、1974年に松下電器入社。2004年にアメリカ松下電器会長、2007年に常務、2013年に車載カンパニートップ。2014年に副社長。2017年にテスラのギガファクトリー・バイスプレジデント。2019年から台湾の電動スクーターgogoro社外取締役(撮影:ヒラオカスタジオ)

――北米のギガファクトリーに対するパナソニックの投資額は2000億円程度といわれています。パナソニックは、今後もテスラの需要に応じて投資をしていく方針を示していますが、工場ができるたびにこの規模の投資をするのは現実的ではありません。

もちろん、新工場ができるたびにサプライヤーが巨額投資をするのはありえない話。だがもっとクリエイティブなやり方はある。

例えばテスラは、1つの工場を作ったら、2度と同じ価格で工場を作らない。1~2割減ではなく、もっと劇的なコストダウンをする。新しく工場やラインを作る際に、何か新しいアイデアを入れないと、イーロンの決裁はおりない。だから、上海のギガファクトリーのコストは、北米よりずっと下がっているはずだ。こうしたクリエイティブなコストダウンを、走りながら考えて実行する。

対して、日本企業の場合は「前回はこれだけかかりました。なので、次の予算はこれくらいです」というやりかた。ある意味で、前例主義だ。しかも、じっくりと慎重に考えてからではないと投資に踏み切らない。頭のいい人が多いから、リスクが見えすぎてしまうのだろう。慎重なのはけっして悪いことではない。ただ、その結果、日本の製造業が敗北してきたのは事実だ。

EV用電池は充放電回数や寿命を重視する方向に

――今後、日本の電池メーカーが付加価値を出して生き残る道はないのですか。

それができるか否かは、また別の話。これまでEV用の電池に求められてきたのは、車の航続距離を延ばすためにエネルギー密度を高めること。だからテスラは、当時世界でいちばん高密度だったパナソニックの電池を採用した。

ある程度航続距離が延びてきた今は、コストの安さ、エネルギー密度の高さは大前提として、何回充放電ができ、どれくらい電池が持つのかを重視する方向に軸足が移っている。電池メーカーは、こうした世の中の動きにいかに対応していくかが問われている。

すでに韓国勢は、電池の持ちを重視する路線に活路を見いだしており、中国勢も一生懸命追随している。このニーズに対応するか否かが、電池業界において今後の大きな分かれ目になるのではないか。

週刊東洋経済』10月10日号(10月5日発売)の特集は「テスラvs.トヨタ」です。
印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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