強引な退院でもトランプ大統領が不利なワケ 大統領再選阻止、バイデン有利に働く3つの要因

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現状、当地のアメリカ政治専門家の大半は6~8割の確率でバイデン氏勝利を予想している。だが、トランプ氏の支持基盤は強固であり、世論調査の平均支持率は何が起きてもほとんど上下せず常に40%台前半で推移し底堅い。したがって、激戦州で数ポイントほど挽回できれば射程圏内に入る。

トランプ氏不在の選挙キャンペーンは試練に直面する中、10月3日、トランプ陣営は「MAGA作戦(Make America Great Again、アメリカを再び偉大に)」を打ち出した。支持者集会にペンス副大統領やトランプ一族を総動員し、大統領復帰まで持ち堪える構えだ。

バイデン氏が勝利を逃すことになりかねないリスクもある。バイデン陣営がトランプ氏のコロナ感染について同情せず中傷し、国民からの反発を招くことだ。だが、コロナの危険を訴えているものの、バイデン陣営はトランプ氏を批判するテレビCMを中断し大統領の早期回復を祈るなど、今のところ微妙なバランスをとっている。

早い退院でも、挽回のハードルは高い

また、仮にトランプ氏が早期回復し、アメリカがコロナ感染の危機から復活することを自ら体現し、コロナを過去のものとして勝利宣言できれば状況は一変するかもしれない。大統領は10月5日、予想以上に早く退院した。有事に国としてまとまる「Rally ‘round the flag(国旗の下に団結)」の効果で支持率が上昇する可能性は残されている。

例えば、ロナルド・レーガン元大統領は1期目の1981年3月、首都ワシントンで銃撃され、入院。この暗殺未遂事件後、レーガン大統領の支持率は11ポイント上昇した。英国のボリス・ジョンソン首相も感染後に大幅な支持率上昇が見られた。

だが、保守系メディアでは大統領の復活を望む声が高い一方、同様のことが起こりうるかは疑問視されている。マスク着用などを軽視し、自らそして多くの国民を危険にさらした同氏への同情はあまり広がらないとも見られているからだ。大統領の感染後にABCニュース・IPSOSが行った世論調査では「大統領がコロナ感染リスクを十分、真剣に捉えていなかった」とする回答は72%にも上った。

2016年大統領選のオクトーバーサプライズであったバラエティ番組「アクセス・ハリウッド」でのトランプ氏の失言発覚も、今回の大統領の感染発表と同じく大統領選の32日前であった。2016年にはトランプ氏の奇跡の挽回が見られた。だが、2020年は前述の通り期日前投票の有権者が急増していることからも、挽回に残された時間が限られ、よりハードルは高くなっている。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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