静岡リニア「JR非公表資料」リークしたのは誰だ 怒り心頭の川勝知事発言はマッチポンプか

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今回の「メモ」は生資料であり、そのまま公表した場合、恣意的な記事づくりの材料にされるおそれがある。そんなリスクを避けるのはJR東海に限らず、どこの企業でも同じだろう。

2018年10月、JR東海が県に提供した資料を、知事は県委員に資料を公開したが、JR東海に対して一般公開は求めなかった。

また、県は報道機関に対しては、段ボール箱の写真と報告書の内訳のみを提供した。専門性の高い内容、民間企業の有する機密性保持を踏まえれば、「段ボール箱の中身をすべて公表しろ」と報道機関が要求するほうがおかしい。

静岡県に開示請求した会議資料。難波副知事発言の墨塗りとされた部分

ところが、今回、知事は同紙に同調して、全面的な一般公開を求めている。もしそうならば、県がリニア関連の資料すべて公開しているのか。

筆者は、昨年5月県庁で行われたリニア問題をテーマにした「大井川利水関係協議会」会議録を県情報公開条例に基づいて開示請求した。県中央新幹線対策本部長の難波喬司副知事が「準備工事の取り扱いの考え方」の見解などを示したものだが、この中で、難波発言の2カ所が12行、7行分墨塗りされ、内容はまったくわからなかった。

知事はマッチポンプの役割か

非開示の理由は、「公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に県民の間に混乱を生じさせるおそれ」というものだ。担当課は「会議のテーマとは別件を話題にしたから」と説明した。

知事はJR東海に対して、県民が誤解を招きかねない資料の全面公開を迫っているが、県の会議録は「県民の間に混乱を生じさせるおそれ」があるとして、非開示。これをご都合主義と呼ぶ。

いちばんの問題は、同紙がどのようにして、JR関連の資料を入手したのかである。JR東海は県関係者にしか貸し出していないのだから、資料データを所持する県関係者のリークしかないだろう。

だとすると県は同紙を使って恣意的にJR東海批判をあおり、知事はそれに火をつける“マッチポンプ”の役割を果たしたことになる。もし、県関係者が静岡新聞に情報を提供したのであれば、「資料を第三者への譲渡および提供はしない」約束を破られたJR東海は、県に厳重に抗議したほうがいい。

10月2日に難波副知事が日本記者クラブで会見して、県の正当性を訴える。県は、これまでもJR東海と国土交通省を相手に“情報戦”を展開してきた。今回の大騒ぎも難波会見もその一環なのだろう。ただし、見え透いた演出をすると、思わぬところで足元をすくわれることもある。正々堂々と「闘う」ことを勧めたい。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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