フィリピン看護師「自国で働きたくない」全事情 コロナで出国禁止措置も彼女らの望みとはズレ
その後、政府は部分的に出国制限を緩和したが、また強化することもあり、看護師らは引き続き制限解除を強く求めている。
34歳の看護師エイプリル・グローリーさんは、すでに何年も幼い息子と離れて暮らしており、出国禁止措置が始まったときも、まさに他国に向けて出発しようとしていた。独自にロイターの取材に応じた彼女は、パンデミック(世界的な大流行)が起きる以前でも、国内にいるよりも戦火の絶えない中東地域の方が良い暮らしができた、と話す。
2011年にイエメンに到着してまもなく、勤務先の私立病院の壁を銃弾が貫いた、と彼女は言う。スタッフは患者を安全な場所に避難させた。
それでも、と彼女は言う。「保険にも入れるし、宿泊費は無料で報酬を手付かずのまま取っておけるから、家族への仕送りも増やせる」 海外では、職務明細書に記載されていない仕事は一切やらなくていい。「床掃除をやることは期待されていない」
稼げないフィリピン、海外と格差
フィリピン人を海外に向かわせるのは、もっぱら収入の問題だ。
労働団体やリクルート企業、フィリピン政府によれば、米国では看護師の収入は月5000ドル(約52万4000円)にもなる。中東諸国では月2000ドルだが、所得税は掛からない。ドイツでは最大月2800ドルだが語学研修を受けられる。
フィリピン保健省は緊急採用の取組みを進めているものの、提供できる初任給は月650ドルにすぎない。保健省では、COVID-19に伴う危険手当として別に1日10ドルを支払うとしている。
民間の看護師の場合、月100ドルしか稼げない場合もある。
グローリーさんは、国を出ることにした理由を「十分に稼いでいないと感じていた」と説明する。いま11歳の息子は、当時は1歳半だった。「母から言われた。子供の記憶が曖昧な今のうちに離れた方がいい、と」