原発事故賠償の天王山、「生業訴訟」判決の行方 仙台高裁で国の責任めぐり、初の判決が下る

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一審の福島地裁判決では、津波の襲来を予見できたにもかかわらず、その対策を怠ったとして、東電の過失のみならず国家賠償法に基づき国の損害賠償責任が認められた。また、国が定めた「中間指針」の範囲を超えて被害が発生しているとしたうえで、福島県南部や茨城県の一部地域の住民の訴えについても、賠償責任が認定された。

「福島県の人口のうち、150万人が暮らす地域について、賠償の上乗せや適用範囲の拡大を裁判所が認めた意義は大きい」と原告弁護団事務局長の馬奈木厳太郎弁護士は評価した。

「賠償の水準」が変更されるかが焦点

その一方で、損害賠償総額は5億円弱(原告1人当たり1万円~36万円)にとどまった。富岡町など避難指示解除準備区域の旧居住者については、国が中間指針で定めた賠償額を超える損害は認められないとされたうえ、福島市など「自主的避難等対象区域」に住む原告についても、追加賠償認定額は16万円に限定された。

同じ県内でも会津地区の住民については賠償すべき損害があるとは認められなかった。「賠償の水準は被害の実態に見合ったものにはなっていない」と馬奈木弁護士は地裁判決の問題点を指摘する。

高裁判決ではこうした認定に変更が加えられるかどうかが焦点になる。地裁判決では、福島市など自主的避難等対象区域において被害が発生している期間について、原発事故直後の2011年3月から、当時の野田佳彦首相が冷温停止宣言をした2011年12月までに限定されている。

生業訴訟の判決に続き、2021年に1月および2月には、群馬県および千葉県に避難してきた住民らが起こした訴訟の判決が東京高裁で予定されている。

生業訴訟を含む3つの訴訟の判決は、原発事故に関する損害を限定的に捉えようとする国や東電の姿勢の転換に大きな影響を与える可能性がある。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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