【鳩山兄弟考】(その1)「他人の始まり」か「左右の手」か

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【鳩山兄弟考】(その1)「他人の始まり」か「左右の手」か

2月12日、国会で自民党の与謝野元財務相が鳩山邦夫元法相から聞いた話として、鳩山首相が母親のところに行って「子分に配るのに必要だとお金をもらっていた」と明かし、首相を「平成の脱税王」と攻撃した。
 論戦の後、実弟の邦夫氏は与謝野氏に「よかったよ」と告げたそうだが、新聞報道によれば、翌日、記者会見で「兄が母に金を無心したとは聞いていない」と述べたという。「無心」の有無、言った言わないの真偽はともかく、この一件は兄弟政治家のあり方と政治力学という問題を浮かび上がらせた。

 政界では世襲政治がいつも問題になるが、身内同士だと、親子、祖父母・孫など以外に、田中眞紀子元外相のような夫婦政治家や兄弟政治家もいる。昔から「兄弟は左右の手」といわれ、助け合う関係とされてきたが、他方、「兄弟は他人の始まり」ともいわれる。
 兄弟政治家では、ともに首相を務めた岸・佐藤兄弟が有名だが、鳩山兄弟とは大きな違いが3つある。第一は、岸・佐藤兄弟の場合、兄の岸氏が政治家として先輩で、首相にも先に就任したが、鳩山兄弟は、政治家としては弟が先輩なのに、追い越して兄が首相となった。第二は、政治的立場の変遷の相違だ。岸・佐藤兄弟は自民党結党以前は党も別で、敵味方だったが(佐藤氏は吉田元首相の側近、岸氏は反対陣営の実力者)、自民党では「左右の手」として協力し合った。
 一方、鳩山兄弟の場合、最初は同じ自民党竹下派、1996年の民主党結成も一緒だったが、邦夫氏は後に民主党を離党して自民党に復帰した。第三は、非世襲の岸・佐藤兄弟と違って、鳩山兄弟は3代続く国会議員の家系に生まれた点だ。

 それらの特徴は鳩山兄弟、とくに鳩山首相の政治家としての隠れた本質と個性を探る手がかりとなる。首相は兄弟の壁をどう乗り越え、あるいはどう活用してきたのか。今後、敵対して「他人の始まり」となるのか、「左右の手」として助け合うのか。この点の考察と見立ては次号に。
(写真:尾形文繁・井下健悟)

塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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