なぜアップルはビーツを32億ドルで買うのか

ブランドパワー、音楽定額配信以外にも宝

もっとも、純粋にオーディオ機器メーカーとしてみたとき、beatsの製品に特別な品質(モノとしての質と音質の両面で)があるのかといえば、答えはノーだ。確かに最初の製品は最高の品質・音質ではなかったにしろ、その道の通を唸らせる完成度の高さは持っていた。しかし、単に良いヘッドフォンを作る技術とノウハウというだけならば、32億ドルもの価値はない。

ではブランド力はどうだろうか。音楽業界との強いつながりを背景とした著名アーティストとのコラボレーションや、オリンピック放送を意識して水泳選手などに周囲の騒音を遮断できるノイズキャンセリングヘッドフォンを配布するなどの巧みなマーケティングでブランド力を高めてきたbeatsは、とりわけティーンエイジャーに対するブランド力で抜きんでた存在だ。米statistaの発表によると、ティーンエイジャーの実に46.1%がbeatsブランドのヘッドフォンを支持しているという。

しかし、いかにbeatsといえども、音楽のアクセサリーの分野でApple以上のブランド力を持っていると評するのは難しい。アップルがブランド復活の快進撃を始めるきっかけとなったのは、iPod、iTunesといった音楽に関わる事業であり、すでに音楽ファンからの充分なリスペクトを受けている。

もっともらしい動機としてbeatsの持つ加入型音楽サービスの獲得が目的ではないか、との説もある。beatsは2012年に加入型音楽サービスの「MOG」を買収。「beats music」として今年1月に再スタートさせている。2000万曲以上を聴くことができるbeats musicは、現在、急速に加入者を集めて北米で20万人まで契約を増やしているとのことだが、しかし急成長とはいえわずか20万人に過ぎない。

アップルはダウンロード型音楽配信サービスのiTunesで支配的な位置にあるが、加入型サービスの展開では苦戦しているものの、20万人のbeats musicに32億ドルという数字は、ヘッドフォンメーカーとしてのbeatsと合わせたとしても合うようには思えない。

音楽業界に人脈を持つキーマン

実際のところ、確実な理由はわからないのだが、筆者はここまでに紹介してきた諸説に加え、beatsの急成長を支えてきたbeats ElectronicsのジミーアイオヴィンCEOという人物への投資ではないかと推察している。アイオヴィン氏は音楽レーベル幹部など、音楽業界の中心に居続けてきた人物だ。

音楽をはじめとしたデジタルコンテンツの流通革新と、その流通革新に寄り添うように製品開発を行うことで支持を受けてきたアップルが、アイオヴィン氏を迎え入れてクラウド型の加入型コンテンツサービスへのパラダイムシフトに、いち早く対応しようと考えているのならば、この買収話もあながち”驚き”ではない。

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