ついに出発、JRの寝台列車「銀河」が抱える課題 食堂車なし、成功には地元の協力が欠かせない

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だが、課題がないわけではない。銀河は長時間走るにもかかわらず食堂車はなく、JRスタッフによる販売もない。その理由は、移動手段という本来の目的を重視したためだ。

9月11日、京都駅で行われた「銀河」出発式(写真:JR西日本)

東京と出雲市を結ぶ寝台特急「サンライズ出雲」も食堂車はなく移動に特化した列車だが、一定のビジネス需要があり、もてなしがなくても成立する。だが、鉄道による長距離旅を楽しんでもらうことを目的に開発された銀河に、乗客へのもてなしは不可欠だ。その点については、停車駅での地元の特産品や名物弁当などの販売が頼りだ。

地元のもてなしが不可欠

銀河の到着に先立って出雲市駅で行われた歓迎セレモニーで、JR西日本の牧原弘・米子支社長は、「地元のみなさんから元気をいただいた」「地元のみなさんに感謝している」と話し、「地元」というキーワードを何度も繰り返した。乗客の満足度を高めるためには、停車駅での地元によるもてなしが不可欠だ。車両という箱物を造って、割安に乗れるというだけで乗客からの支持を得られるとはJR西日本も考えていない。

出雲市駅のコンコースで「銀河」の乗客を出迎える地元関係者たち(記者撮影)

地元も銀河でやってくる観光客に加え、銀河効果で山陰の魅力が全国に情報発信されることを期待している。歓迎セレモニーでは、丸山知事が「新型コロナの影響で運行開始が遅れたが、観光のハイシーズンに間に合った」と安堵の表情で話し、出雲市の長岡秀人市長は「久々にうれしいニュース」と、喜びをあらわにした。出雲市では宿泊者に市内の飲食店や土産物店で使える3000円のクーポン券を配るなどの取り組みを行っている。観光業の立て直しは喫緊の課題だ。

銀河が出雲市に乗り入れるのは11月まで。12月からは山陽方面へ運行する。それだけに、9〜11月の3カ月間でどこまで全国から観光客を呼び込めるかが、成功の試金石となる。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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