1964年のラスベガス、思いもかけない旅の記憶 夜の砂漠に浮かび上がる彼の地は幻想的だった
ラスベガスはギャンブルやショーが収益源で、ホテル代は安いと聞いていた。それをロブに確かめると、即座に「イエス!」の答えが。でも、僕は「節約したいから街外れのモーテルでいい」と言って、予約をロブに頼んだ。
ロブと別れた後、「GFと一緒なのに……いいのかな?」とエレインに聞いた。
「ロブのほうから声かけてきたんだから、心配いらないわ。GFだってwellcome ! のはずよ。日本のこと聞くの楽しみにしているんじゃないかな!」が、エレインの答え。
サンタモニカからラスベガスまでは約300マイル。途中で1度コーヒーストップすると6時間くらいのドライブになる。
ファンタスティックな光景を見るために
僕の泊まっているモーテルを出発したのは14時頃だったと思う。どうしてもっと早く出発しないのかと思ったが、理由があった。
「真っ暗な夜の砂漠に浮かび上がるラスベガスの光景は見物だよ! とくに、遠くから近づいてゆくときは……それを見せたいと思ってね!」とのことだった。
連れて行ってくれるだけで有りがたいのに、そこまで気遣ってくれるとは……。ロブにはほんとうに感謝感謝だった。
GF……残念ながら名前は思い出せないが、可愛くて、明るくて、でも、あまりお喋りじゃなくて……素敵な女性だった。20代半ばくらいだったと思う。
ロブのクルマもよかった! 1960年型シボレー・ベルエアの4ドア。淡いグリーンとオフホワイトの2トーンがカッコよかった。
写真をお見せできないのが残念だが、1964年のこの旅、写真は数えるほどしかない。今のように小さなデジタル・カメラがあれば、撮りまくっていただろうに。
ラスベガスへは、ゆったりうねり、ゆったりアップダウンする砂漠の一本道を、ただ淡々と走る。モーテルとドライブインとガソリンスタンドがたまにあるだけだ。
陽が沈む時間帯の砂漠を見るのは初めてだったが、壮大な物語を語りかけてきた。「病みつきになる」のは確実だった。
片言でそんな感想を伝えたのだが、ロブにもGFにも気持ちは伝わったようだった。ロブはうれしそうだったし、GFもニコニコしていた。
「ピックアップトラックの荷台で夕景を見て、そのままスリーピングバッグに入って、星空を見ながら砂漠で眠る」……そんな旅をしたいと言ったら、ふたりとも歓声をあげた。
ラスベガスに近づいたのは19時半辺りだったと思う。もう完全に陽は落ちていた。
「そろそろ見えるかも……」とロブが言った少し後……前方の闇の中、赤っぽいオレンジ色に光るドーム状の灯りの塊が見えた。
かなり「唐突に」といった感じで見えたが、砂漠の道のうねりとアップダウンがもたらした現象だったのだろう。
僕は思わず歓声をあげた。いや、歓声というより奇声に近かったかもしれない。ロブもそんな僕の反応に呼応するように、「ファンタスティックだろう!」と声を張り上げた。
オレンジ色に光るドームは近づくにつれてどんどん大きくなるが、まさに「ファンタスティック!!」……「未知との遭遇」……そんな不思議な感覚の眺めだった。