日本の対韓世論の変化に無知な文在寅政権 安倍辞任で「対日姿勢を柔軟にすべき」との声も

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――文政権は1945年8月15日の植民地支配からの解放=「光復」に至った歴史にもこだわっている姿勢が目に付きますね。日本支配の終わりは「外からもたらされたものではなく、自ら勝ち取ったものだ」と。

韓国では今や「対日戦勝史観」が定着しつつある。就任翌年の2018年8月15日の演説で文大統領は「光復は外からもたらされたものではない」と断言した。この史観はこれまでの教科書をはじめとする韓国の公式な歴史観とは異なる、明らかな誇張、ないし歴史の歪曲だ。

――具体的にどのような史観ですか。

これまでの韓国の歴史教科書では、植民地からの解放について「光復は連合国の対日戦勝によってもたらされたものだが、同時にわれわれの粘り強い抗日独立運動の結果でもある」とされてきた。つまり苦肉の両論併記だったのが、文在寅大統領は「われわれが日本を打ち負かして、われわれの手で解放(光復)を勝ち取ったのだ」と言い出した。

韓国では近年、テレビドラマや映画などの抗日モノには必ずといっていいほど「独立軍」なる存在が登場し、日本軍と戦う華々しい戦闘シーンが売りになっている。韓国人にとって、そうした夢あるいは理想(あるべき歴史)としてのドラマ的な抗日活劇談のような対日戦勝史観が、今や大統領によって事実としてあった歴史であるかのように主張され始めた。

対日戦勝史観が軍事的緊張を生み出す

――そのようなストーリーは、北朝鮮の「抗日パルチザン闘争」と同じような意味合いになってきますね。パルチザンとして日本と戦い、独立を勝ち取ったという建国ストーリーと重なってきます。

南北とも民族的願望という見果てぬ夢を歴史解釈で“事実”にしているわけだが、こうした虚構としての対日戦勝史観が、国民を元気付けるための内部消費にとどまらず、日韓関係にも無視できない影響を与えている。対日戦勝国という意気揚々さというか「日本何するものぞ」という気分が、たとえば「反日無罪」的に日本相手には何でも許されるという心理から、日本の世論を刺激する反日パフォーマンスが頻繁になっている。

2019年の日本の対韓輸出管理強化策(制裁)に際し、官民挙げて「経済侵略」「経済戦争」として反日を叫んだり、日本を「戦犯国」とし、旭日旗を「戦犯旗」、徴用工がらみの日本企業を「戦犯企業」というなど、しきりに「戦犯」という言葉が登場するのもその一例だ。戦勝国気分で反日をやっているのだ。不買運動でもメディアは「独立戦争の心意気」と言っていた。

――もっと言えば、2019年末の韓国艦艇から日本の自衛隊機へのレーダー誤照射事件やGSOMIA延長といった安保関連の問題に対しても強気になるわけですね。

著書では「韓国の対日擬似戦争」として詳細に指摘したが、安保や軍事問題での韓国の“ケンカ腰”の危うさも強調した。「日本何するものぞ」という戦勝国史観は民族感情なので、安保・軍事問題での感情傾斜は不測の事態を招きやすい。これは何としてもうまく管理されなければならない。日本として韓国への対応は、そうした観点というか”実情”を念頭においたものでなければならない。同じようにケンカ腰になってはまずい。

――日本から見るとあまりにも一方的な韓国の対日観ですが、それでも韓国は隣国であり、引っ越しもできません。韓国とうまく付き合うための方法はあるのでしょうか。

ときに誤解も拡散されるオンラインニュースの時代。解説部コラムニスト7人がそれぞれの専門性を武器に事実やデータを掘り下げてわかりやすく解説する、東洋経済のブリーフィングサイト。画像をクリックするとサイトにジャンプします

繰り返しになるが、「なぜ日本で反韓・嫌韓世論が高まっているのか」を韓国に認識してもらうほかない。韓国における歴史がらみの執拗で度を越した反日現象が、日本人の反韓・嫌韓感情を引き起こしていることを韓国世論にわからせるしかない。たとえば官民挙げて嬉々として扇動、展開かつ愛国運動として称えられた不買運動もそうだが、韓国のような先進国レベルの国で特定国の製品の不買を、国を挙げてやるような国は世界のどこにもない。その異様さ、異常さを知るべきだ。

先ごろ韓国大手紙の「中央日報」が「あの反日不買運動は選択的不買運動だった」と総括していた。つまり、韓国で代替できるものは不買対象になったが、代替できないものは不買にならなかったという。結局、ご都合主義的で“いい気な愛国”だったというわけだが、そんな反日パフォーマンスが、韓国という国の品格(国格)にふさわしいのか。米国など他国も巻き込んで国際的基準や国際的常識で迫るしかないだろう。

――ポスト安倍の日韓関係、韓国側ではどのような予測が出ていますか。

当面、誰になっても自民党政権には変わりないので大きな変化は期待できないというのが一般的な見方だ。しかし、同時に日本の首相交代を変化につなげるには、「韓国の姿勢が柔軟にならなければならない」(中央日報8月31日付、朴喆熙・ソウル大教授の論評)という文政権への注文もあった。内政を含め文政権の政策的硬直さには批判が強くなっている。識者からは、「日本が変わるのだから、文政権もこの際、変化すべき」という声が結構、聞こえてくる。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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