静岡リニア問題、県民視点で見た問題の本質 知事のメッセージは最初からJR東海に明示済み
2011年3月の東日本大震災、福島第1原発事故の壊滅的な大打撃に日本中が打ちのめされた2カ月後、国は総工費9兆円超のリニア中央新幹線整備計画を発表した。日本再生を図る国家的プロジェクトへの期待が大きく膨らんだ。
静岡県では最北部の南アルプス地下約10kmを通過することになったが、山梨、長野、岐阜などの大騒ぎに比べ、地元マスコミの扱いは小さく、ほとんどの県民には他人事だった。大井川源流部の南アルプスは、登山や渓流釣り以外にはなじみが薄く、あまりに遠く離れた“秘境”とも言える場所だからである。
静岡空港は閑古鳥
一方、年間160万~170万人の利用客を見込んで2009年6月に開港した静岡空港(富士山静岡空港)は、2010年の利用客が約59万人にとどまっていた。採算ラインの半分にしか達しない惨憺(さんたん)たる状況で、リーマンショック後の静岡県経済「停滞」の象徴となってしまった。リニアが東海道新幹線から大都市間輸送における主役の座を奪い、静岡県経済の停滞に追い打ちをかけ、「衰退」へ向かうとの声が地元経済界から数多く聞かれた。
また、当時の静岡県は、リニアが開業すると東海道新幹線に余裕が生まれ、静岡空港付近に新幹線の新駅を造る構想に追い風になるという理由で、リニア開業支援を表明していた。
「私の堪忍袋の緒が切れました」。大井川の水環境問題でJR東海への対応を川勝平太知事が旗色を鮮明にしたのは、2017年10月10日の記者会見だった。それ以前にリニアを問題視したことは一度もない。
同年4月、県は「工事で出た湧水全量を大井川に戻す」よう求める意見書をJR東海に提出していた。JR東海は、大井川流域の利水者と協定を結ぶための話し合いを続けていた。その交渉について、地元の状況を聞いた知事は「あたかも水は一部戻してやるから、ともかく工事をさせろという、極めて傲慢な態度で臨んでいる」と、JR東海に強い不満を述べた。
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