静岡リニア問題、県民視点で見た問題の本質

知事のメッセージは最初からJR東海に明示済み

さらに、「静岡県には何のメリットもない。静岡県民に誠意を示す姿勢がない。地域振興なり、地域へのメリットがあるのかといった、基本的な考え方がないのならば、勝手にトンネルを掘りなさんな」と厳しく述べ、「地域貢献がなければ、JR東海への協力は難しい」と明言した。

これだけ激しい知事の物言いにもかかわらず、JR東海はまったく反応しなかった。この会見をきっかけに、県は地質構造・水資源、生物多様性の2つの専門部会を設け、ハードルを高く設定した解決方策を求める議論が始まった。

2018年6月、金子慎JR東海社長が静岡市を訪れ、田辺信宏市長と「リニア建設への協力と地域振興」に関する合意書を結んだ。静岡市は、リニア工事の作業道となる東俣林道の通行許可など工事に必要な行政手続きを速やかに対応した。これに対して、JR東海は南アルプスと市中心部を結ぶ県道に約140億円のトンネルを建設するという地域振興策を行うことで市と合意した。

寝耳の水の合意に川勝知事は激怒した。抜け駆けした田辺市長だけでなく、JR東海にも強い不信感を抱いた。市役所のすぐ隣にある県庁で水環境議論が続いているというのに、一言の説明もなかったからだ。4月に代表取締役に就任したばかりの金子社長が県庁に挨拶訪問することもなかった。

できもしない約束だった?

水環境の議論がかみ合わない中、同年10月、JR東海は「原則的に県外に流出する湧水全量を戻す」と表明、これで問題は一気に解決するとみられた。その後、「湧水全量戻し」の方法について具体的な議論が交わされていたが、1年近くたった2019年8月、JR東海は「工事期間中の湧水を全量戻すことはできない」として、湧水の一部は、山梨、長野両県に流出することを認めた。

3000m級の山々が連なる南アルプスを源流とする大井川。右上に畑薙湖、そこから30km以上も北上すると、リニアトンネル建設予定地に到着する(鵜飼一博撮影)

金子社長は会見で「話が進まないので、利水者の理解を得たいと方向転換した。(湧水全量戻しの表明は)問題を解決しようとした中で出てきた方策」と発言した。全量戻しは利水者の賛同を得るための“方便”であり、「できもしない約束だった」ということで、地元はさらに硬化してしまう。

県専門部会の議論が難航する中、今年4月27日、国交省の立ち上げた第1回有識者会議で、金子社長は「南アルプスの環境が重要であるからといって、あまりに高い要求を課して、それが達成できなければ、中央新幹線の着工も認められないというのは、法律の趣旨に反する」、「静岡県の課題自体の是非、つまり、事業者にそこまで求めるのは無理ではないか、それが達成できなければ、工事を進めてはならないという静岡県の対応について、適切に対処願いたい」などと発言、川勝知事らの猛反発を呼んだ。結局、金子社長が発言の撤回、謝罪することで決着するが、地元ではJR東海への拭えない不信感だけが残った。

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