なぜ自分が?「MaaS」生みの親が語る苦難の道筋 東急の「観光型MaaS」リーダー、2年間の「戦い」

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――紙のフリーパスなどと違う、デジタルサービスの「Izuko」の強みは何ですか。

移動データが取れて、商品を最適化できることです。伊豆は季節波動が大きいので、一瞬の繁忙期に合わせて人員計画は組めませんし、人手が少ないのでアルバイトを集めるのも難しい。季節ごとや曜日ごとの傾向などがあらかじめわかっていれば対策が取れます。これは、地域全体で人が減っていく中でどのように最適化して(観光客への対応などを)回していけるかを考えるうえで、極めて重要だと思います。

自分のプロジェクトを題材にした理由

――森田さんはすでにノンフィクション作品の著書2作があり、今回が3作目です。自らがリーダーを務めるMaaSプロジェクトをテーマにしようと思った理由は?

昨年2月に編集者の方と話をしたとき、別の題材で3作目の提案をしたんですが、「ところで今、仕事では何をやっているんですか」と聞かれて。それで、MaaSをやれと言われたものの自分はIT音痴で部下は不思議ちゃんばっかりで泣きそう、という話をしたんです。そうしたら「それだ」と。

『MaaS戦記 伊豆に未来の街を創る』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

僕は2013年まで「渋谷ヒカリエ」内の劇場「東急シアターオーブ」の立ち上げを担当していました。劇場で世界中から選んだ作品をかけるという仕事は本当に大変だったんですが、初日に観客のスタンディング・オベーションを見た瞬間にすべての苦労が報われる幸福感は本当に大きくて、自分のキャリアの中で一番熱い時代でした。

著書の1作目、2作目は、その「魂の居場所」というか、表現の場を失ったことに対する「代償行為」の面があったんです。でも今作は、苦労や失敗を重ねつつ日々迷いながらやってきた、リアルな自分の生きた証しだと思います。

あの熱い時代は戻ってこない、別の形で自己表現を――と思って書く活動を始めたんですが、もう断絶したと思っていた劇場時代の「ショー・マスト・ゴー・オン」という精神が、この2年間夢中で走り続けてきた中でちゃんと(自分の中に)生きていたんだと、書くことを通じて再認識できたのがとてもうれしかったですね。

――「ショー・マスト・ゴー・オン」。文中では「ショーは続けなくてはならない」という直訳から転じて、「『人生に何が起きたとしても、毎日は続いていく。あきらめずに生きていけ』という、逆境に置かれた人を励ます言葉」として登場します。

今は会社も伊豆もチームも苦しい時期ですけど、でも明日があると思っている限り明日はあると。その明日を拓くために、僕は地元の人たちとがんばって伊豆に貢献していきたいですし、日本を代表するMaaSの事例となったIzukoを参考にしてもっといいMaaSが展開していけば、日本全体が良くなっていくと思っています。

異動の時、最初に野本(社長)からMaaSは「『東急のため』でなく日本のためにやれ」と言われたんですね。志を高く持ってやり続けるということが大事だと思います。やっぱり、たどり着く境地は「ショー・マスト・ゴー・オン」なんです。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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